<8> 主役は【悪役令嬢】

年代物アンティークの燭台の燈色に照らされた年代物ヴィンテージの液体は赤よりも黒に近く、犯した罪の色合いを呈して。

ステムプレートに紋入り陶石をあしらった特注のワイングラスを揺らしながら、待っている。


「オリアンヌ様、王城より使者が参りました」


執事が訪いを告げ、私は二度と戻らない自室のテーブルにグラスを置く。

廊下の開いた窓から、鎮魂の鐘が低く聞こえる。

常春の国トルネラの穏やかで温かな風に、街のそこかしこで焚かれている香の匂いも乗る。

国中が沈んでいる。


ふたりの王子の死に。


そして、世継ぎをすべて奪われた王は、怒りに狂う。


「お迎えに上がりました」

「そう……」


使者は他に何も云わず、ただ馬車へと導く。

私はひとり、深々と頭を下げる執事に見送られて邸を後にする。





ふふふっ。

あははははっ。


馬車の中、護衛という名の監視は、決闘パズルゲームにて服従させた女騎士。

大笑いにも反応せず、隣に座って耳朶を食んでも可愛らしい吐息を漏らすだけ。

主人公クラリス五人の攻略者を籠絡逆ハーエンドを目指している間に、私が王城で学園でどれ程の配下デクを得たと?


楽しかった。

いや、途中からは作業ゲー、苦楽半々ハーフハーフ

誰と対戦しても同じ制約なら、同じ操作で試合終了ゲームオーバー

量産した私兵で何を遣ったか。


正解は——


馬車は王城へ到着し、騎士に先導されて王の間へ案内される。

窶れ顔の王と、聖なる魔力の乙女クラリスと、多数の騎士、衛兵。


あぁ、いよいよ。

最高潮クライマックス

この時のために。


私、フォンテーヌ公爵令嬢オリアンヌは、華やかで艶やかで嫋やかな声を凛と張る。


わたくしを断罪するのでしょう?

王太子と第二王子を葬ったこの私を」


王太子クリストフの隠し部屋をここぞで密告。隠し持っていた毒物は王の不調の要因であり、一時謹慎処分となる。

常春の国には似合わぬ寒さの高山の村悪役令嬢の追放先へ移送される途中、馬車は谷底へ転がり落ちて。

同日、離島の元第二王子スローライフを満喫中も釣り舟の転覆にて行方知れずになり。


血を継ぐ者すべて失った王は、暗殺を主導した公爵令嬢を断罪する。

憎しみに正気を失い、うら若き女性に対して考え得る最も残酷で冷徹な私刑ともいえる罰を与える。


「さぁ、」


ブルーダイヤの腕輪がキラリ光る右手を胸の前で伸ばして蠱惑的に指をくねらせて。

三十もの大粒ルビーを配した豪奢なネックレスが飾る真っ赤なドレスの胸元を逸らして。


衣装ドレス首輪ネックレス腕輪ブレスレットも、纏うモノすべてを剥ぎ取り破り捨て、浮かぶような白い肌に憎悪をぶつけて。

世界を睥睨するこの翡翠の瞳を、魔女と罵り、悪魔と呼んで、まさに生贄の如く嬲り続けるがいい」


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