<7> 【華やかなる社交】の裏で

シャンデリアに照らされた彩り華やかなドレスが、黒大理石の床に浮かぶようで。

間を泳ぐ黒や紺の燕尾服の男たちは自らの価値、爵位や職位や姿形や身に付ける宝飾品で女を釣りにきたのか、釣られにきたのか。


今宵さる侯爵邸にて開かれた夜会には学園関係者も多数出席。

来月開かれる学園ホールでの卒業パーティの予行演習、相手パートナーの最終調整。


「バジル様、では後ほど……」


婚約破棄はクラリスの見極めが済んでからとの言質を得た当家フォンテーヌ公爵家であるが、婚約相手クリストフがパートナーを拒否し、例の少年バジル・バルサン、噂を逆手に恋人役を演じさせている。


とはいえ、非難の目が鬱陶しく、会場から離れて邸内を歩く。

同じく婚約者以外を相手に選んでも女性側に厳しい非難の目が向くのは中世欧州風世界ゆえか——


「————————っ」


魔法にて姿と足音を忍ばせた私の耳に、微かに女性の悲鳴が届く。

邸内には客間が多く、客人の休憩に、或いは夜会を抜け出してコトに及ぶ者もいる、が。


どっ、ばーーっん。


「無理やりは……あら」


扉を魔法で破壊し、部屋に踏み込み、狼藉者を誅するつもりが、


「まあ。貴女でしたの……看板でも立てて下されば、邪魔立てしませんのに」


頬を掌で包んでコテンと傾げれば、のし掛かる第二王子は慌て飛び退き、解放されたクラリスの口から魔法の詠唱——


「ぐぁああっ」


聖なる魔法の矢が背後から第二王子狼藉者を貫く。

バタタと廊下から駆け付けた騎士に、今度はクラリスが慌て胸元ナインを隠した。





「礼をいうのも忌々しいが、お陰で証明できた」


深紅の薔薇を胸元に挿した王太子クリストフが、薄桃の薔薇飾りを髪に結わえた主人公クラリスの肩を抱き、私、フォンテーヌ公爵令嬢オリアンヌに挨拶に来る。

薔薇夫人と呼ばれる伯爵夫人の庭園茶会ガーデンパーティ、絶品の紅茶の芳香に棘が混じる。


聖なる魔力を持つ娘の籠絡を狙う第二王子は、敵わないならば実力行使と短絡ショートした。

襲われた衝撃ショックで放った——と言い訳したクラリスの魔法は、大腿部を貫き、頬や耳まで掠めた。

聖なる魔法は特殊魔法、一般の回復魔法は効かない。補助具なしの歩行が困難になり、顔にも目立つ傷を残した第二王子の凶行を隠す手立てはなく、廃嫡の上、離島領地へ追放に。


王太子は宿敵を排除し、クラリス国を安泰に導く娘擁立の好機となった。

次は——


君もようやく自由の身今度はお前の婚約破棄、追放だ。本当に愛する者伯爵家すら継げないガキ幸せ地獄に落ちろに」


耳障りな高音が本質を表す。

苛立ちで立ち上がる隣の少年バジル・バルサンに向けて唇に人差し指を当て、ゆっくり身体半分ハーフハーフで仰いだふたりに、


「そうね」


とだけ、微笑んだ。

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