たとえばそれは、海原を奔る焔のような。理想と陰謀、正義と祈りの戦記

めっさ面白かったです。
あと、技術点がとても高い。

本作「ダークファンタジー」という看板を打ち出しておりますが、私的には本作、「戦記」であると感じました。
ひとつの王国に訪れた歴史の転換点。その只中においてひとつの大きな理想を抱き、野望と陰謀の業を負いながら力の限り駆け抜けた騎士アルノーの物語です。
「五話くらいからテイスト変わります」、という形で紹介文でも言及されていますが、まさしくそこが本作の真骨頂、その第一弾というところで、私はそこまで読み終えた時点で「マジかぁ…この展開…」という気持ちで感嘆の息をつくばかりでした。

こう、思い切りがいいです。
展開がとても早い――というより、伏線として撒いた伏せ札の切り方が、目を瞠る鮮やかさでした。
ひとつひとつのエピソードに導線を通し、業を撒き、その業から跳ね返る結果を以て物語の結末を形作る。緻密に計算され、要素を積み重ねることで完成された物語であると感じます。完成度たっかい。
世の中の作品の中には、脚本の完成度の高さであったり、展開の切り回しの鮮やかさであったりで魅せる物語というものがありますが――言い換えると、「この先の展開はどうなるのか」「ここで撒かれた布石はどのように回収されるのか」といったように先への牽引力を作る物語の類です――、このおはなしはそうしたうちにおさめられるひとつ、そうしたものであると感じました。


細かいところだと、私的にはキャラの「格」の扱いに関しても、巧いなーと感じるところでした。
アルノーの庇護者たる王子ジェラールにせよ、アルノーが対決する敵手である宰相ロベールにせよ、こう…展開で「格」を落とさない感じが大変いいなぁと思ったのです。
主人公が強い話だと、この辺の扱いなかなか難しいやつだと思うのですよね。でも、そこを上手く汲んでいる感じがします。

最後にあらためての言及となりますが、本作は完成度の高い物語です。
ファンタジーな物語に耽溺する上質の体験をお約束できると思いますので、戦記系ファンタジーがお嫌いでなければ是非に。おすすめです。

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