第36話 君に捧ぐ永遠の唄(終)

そして、あのオーディションから早二年。僕は本当に歌手になった。


縁あって深夜の音楽系テレビ番組にも出させて頂いたし、ゲームの主題歌も歌わせてもらったり、小さいながらもコンサートを開かせてもらったりもした。 


しかし正直言ってプロの歌手になったとて、苦労することは今でも多いし、まだ新人の僕は仕事を掴みに行くのに必死に駆けずり回る事が多かった。 あの日、僕が取った「合格」は夢のスタート地点に過ぎなかった。


それでも、大好きな歌を歌い続けて誰かに喜んでもらえていることは、僕にとって何より嬉しくて、楽しくて、生きる力になるものだった。


小さい頃から夢見ていた、歌について考え、自分の手で書き、自分の喉でもって表現して、人に感動や安らぎを与える・・・・・ 僕はまだまだ小さい歌手だけれども、それでも少なからずファンが付いてくれて、そんなファンたちからたまに来る便りや、コメントを見るたびに本当に胸が熱くなった。 自分の歌が、今度は誰かの心の支えや、癒しになってくれている・・・・その事実だけで、僕の胸はいっぱいだった。



毎日、大好きな音楽の仕事に携って、歌を歌い、歌を作り、それはもう幸せに過ごしていたけれど、まだそれは本当の幸せまでとはいけてなかった。



・・・・そう、まだとわが目を覚ましていなかったのだ。


もうあれから、かなり長い時間が経っているのだけれど、どうやらこの病気は思っている以上に中々回復するのが難しく、彼女は息をし続けているけれど、中々目を覚ますことはなかった。



それでも僕は、彼女に歌を届けるべく、いつも彼女に自分が出演したテレビの録画を聞かせたり、「発表会」をして耳元で歌っていたりしていた。


反応はなくとも、返事が出来なくとも、きっと彼女は聴いてくれている。そう信じていたからだ。


そして今日は「発表会」・・・・なのだが、いつもの発表会とは一味違う。


今日の発表会で歌う曲は、彼女をイメージして作った曲だったのだ。


ついこの間テレビで初披露したばかりだったけれど、今回これの完全版を歌うのはこれが初めてであった。



更に、今回の「発表会」では、もう一つすることがあった。



実は最近、とわの神社の近くにある、よく僕が足を引っかけていた木の根元を掘っていたら、偶然呪術の載った本が見つかり、色々な手を使って翻訳していたのだった。


本当に効くのかは未知数だったし、僕は神社の人間ではないけれど、僕は僅かな可能性に賭けて、それを唱えてみた。



・・・・がやはり何も起きない。 仕方がないので、ため息をして



「そろそろ歌の準備でもするかー」


と言った瞬間だった。


「はあい!待ってました!!」


・・・・・ん? なんだか聞き懐かしい声が聞こえてきたぞ。


振り返ってみると、起き上がったとわがいた。


眩いばかりの笑顔をこちらに向けて、佇んでいた。


「え!?え!?ちょ・・・・なんで!?!?」


僕は嬉しかったと同時にパニックになった。だって、ついさっきまで確かに寝たままで会ったのに。


「なんでって、やっとどうにか起き上がれるくらいに身体の調子を戻すことが出来たのよ。・・・ここまでやるのは本当大変だったわ・・・・・。何とかあと少しのとこまで来た時に、凛歌が呪術を使ってくれたおかげでやっと抜け出せたよ~」



どうやら、僕が唱えてみた呪術も、微力ながら役に立っていたらしい。


二年間もの眠りから覚めて、眩い笑顔を見せる彼女を見て、僕は目から熱いものが零れ落ちて止まらなかった。


やっと・・・・やっと、彼女は目を覚ましてくれたのだ。 ずっと、未知なる病と闘い続けて、いつ帰ってくるかもわからなかった彼女が、目を覚ましてそこに佇んでいた。


やっと会えた・・・・諦めなくてよかった、ひたすらに頑張ってよかった・・・・! 今度こそ僕は、試練を乗り越えることができた! 涙が溢れて止まらなかった。



そんな泣いてる僕を見て、彼女はフフっと笑った。


「ほぉ~ら。そんな泣かないの。・・・・それよりも、貴方が私のために作ってくれてたって曲・・・・聴きたいな?」


悪戯に微笑んで、彼女はそう言った。


それもそうだな・・・・。折角、彼女が戻ってきたのに、いつまでも泣いてちゃいけない。この曲を・・・・この世界にたった一人だけの君に送るんだ。


「よーし、じゃあ行ってみよっか!!!」


とわの元気な声に頷いて、僕も自信を持って、歌を歌い始めることにした。


「それでは聴いてください・・・・『君に捧ぐ永遠の唄』 」




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君に捧ぐ永遠の唄 須田凛音 @nemerin

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