第29話 絶望と夢の始まり

そう、春ごろ僕が真夜中に転げ落ちてたどり着いたところにそっくりだった。


そこそこ立派な本殿に、鳥居・・・・間違いない。森之宮神社だ。


という事は、きっととわも・・・・


首を振って辺りをまた見回してみる。


もしかしていたりしないかな・・・・・やっぱいないかな・・・・どうだ・・・おっ・・・



「「あっ・・・」」


目が合った。


よく見たら、杉の木の裏に隠れていたようだった。


彼女は何故か僕に背を向け、咄嗟にダッシュをかまそうとしていた。


「・・・・ちょっ・・・・待ってって!!どうしたんだよ、とわ!!!」


僕も猛ダッシュで追いかけた。



「追いかけないで!! 貴方は・・・貴方は・・・・私と一緒にいちゃいけないの!!」


僕は少しびっくりした。



「なんでだよ!今までだって、ずっと一緒にやってきたじゃないか!! ・・・・一体どうしたんだよ!!」



「ごめん・・・・ごめんでも・・・・ううっ・・・・」



泣きそうな声を漏らしながら、彼女はまだまだ逃げていた。


でも、明らかにさっきよりバテ始めている。あともう少し、もう少しで・・・・。


僕は、彼女の肩を持って止めた。


「・・・っっ!?!?」


顔を赤く染めて、目に涙をいっぱいに貯めて、そして、少しびっくりした顔をして、彼女は僕の方を見た。


「おい、どうしたんだよ、とわ。あんな急に行方をくらまして。一緒に頑張ろうって言ったじゃないか!!」



「・・・・ごめ・・・んなさい・・・・でも・・・でも・・・ゲホッゴホ・・・」



「とりあえず、これ飲んで落ち着け、な?」


僕はたまたま持ってきていた水筒のお茶をコップに入れて彼女に渡した。


う・・・ん・・・と言いながら、深呼吸をしてとわはお茶を、コクン・・・・コクン・・・・コクン・・・・と飲んだ。


とりあえず多少は落ち着いてくれていたようだった。


そこから、少しばかり雑談を挟んだのち、とわは、僕にやっと事情を説明してくれた。


あの日の帰り道、とわは何百年ぶりに発作を起こして、もがき苦しんだこと。


とりあえず様子を見ようと、神社にこもっていたけれど、それでも発作はかなりの回数でまた起きていた事。


そんな症状が起き始めてから、僕に迷惑をかけまいと距離を置こうとしていたこと。


彼女はやっと、僕に打ち明けてくれた。


「そう言う事なら、ちゃんと僕に相談してくれよ・・・!! 突然いなくなっちゃったらびっくりするじゃないか!!」



「そ、それはそうだけど・・・・でも、私のせいで凛歌の夢が叶わなくなっちゃうのはもっと嫌だもん!! ・・・・でもどうしていいかわからないの・・・・。」


彼女はまだまだ泣きじゃくっていた。 



僕もどうにか彼女を救える方法はないのか必死に考えていた。


何かまだ僕にできることはないのか。この病にどうにか食い下がる方法はないのか。


何かないのか・・・・何かないのか・・・・何かないのか・・・・



そして、僕は一つの案を思いついた。 そうだ・・・・これならいけるんじゃないか。と。


「なあ、とわ。前に妖怪と戦ってた頃の話でさ、呪術ってあったよな?」


とわは、ちょこんと首を傾げて考え込んでいた。


「そうね・・・確かにあったわ。 確か解毒をする呪術なんかもあったと思う・・・・・・でもあれは、私のお父さんが持っていた呪術の本があって、それを見てやっと出すことができたものだし、解毒魔法はものすごく難しい難易度の高いものなんだけれど・・・・・・けど、もし見つけてどうにかする事が出来たら、この病に対抗することができるかもしれないわね・・・」



「なるほどねえ・・・・。という事は、その本さえ見つかれば・・・・ってことか。」





「うん。 ・・・・でも、その本は私の父が本当に大事にしていたもので、私にも保管していた場所を教えてくれなかったのよね。もし、この家とかの中にあればどうにかすることができるんだろうけど。」



「そうか・・・じゃあ、今後はそれを一緒に探しながら、練習していくってのはどうだ?」


「でもそれじゃ、凛歌の練習時間が・・・・」



「それなら大丈夫! その分キッチリ詰めて練習してくから・・・・。僕も君の運命と戦ってくよ・・・!」



僕はそう言ってはにかんで見せた。



「・・・・ありがとう。本当にありがとう・・・・。」



またとわは、目を潤ませて、でも心からの眩しい笑顔を向けてそう言った。





もう一つ、叶えるべきことが増えた。


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