第27話 突如漂う暗雲

私は、今日は満ち足りた気分で、山の中を下って、家に向かっていた。


だって、嬉しいんだから仕方ないじゃない。 あんなに素晴らしい歌を聴かせてくれたんだから。・・・・それも、私一人の為だけに。


初めて私が凛歌の歌を聴いた時、すっごく惹きつけられる何かを感じたの。


男の人なのに、何処までも透き通るようで、まるで少年のような無垢さまで感じるような歌声、そして時折感じる男性らしい力強い声。 私はあの時ときめいてしまったの。」



あの時ときめいた直観を信じて、彼を説得して、ここまでやってきて・・・本当に達成感が溢れてて止まらなかった。




この病になって、もう何百年と経ったけれど、私は本当に久しぶりに生きる事って楽しい、って心から思えた。 この時ばかりは、自分の病が少し有難く感じていた。



そう、この時までは。





私は、自分の神社に戻るために、森の中の暗いけもの道を、凛歌が練習で良く歌っている歌を口ずさみながら、ひた歩いていた。


そして、歌を軽やかに歌いながら、私は次に彼にどんなトレーニングをさせようか、そして明日また彼の歌声が聴けると思うと、何だか胸かポカポカしてきていた。


そんな時だった。


 私の身体にあの時と同じような、ズンとくる苦しさと倦怠感が襲ってきた。


「うぐぐ・・・・・・ううううううううううううう・・・・」


私は、うめき声をあげてその場に丸まりこんでしまった。


頭が痛い。身体が重い。吐き気がする。


でも、あの時みたいに気を失いたくはなくて、私は気力だけでなんとか意識を保っていた。



私は悔しくて泣いた。恐ろしくて泣いた。


何百年と寂しく、虚無の時間を送ってきて生きることが嫌で嫌で仕方なくて。


でも、彼に出会って全てを打ち明ける事が出来て、そして彼の夢を支えられることになって、やっと私にとって苦しいことでしかなかった「生きる」という事が、やっと楽しいと感じれるようになってきていたのに。


やっと生きていたい理由が見つかったのに、その理由を追えば追うほど、私の命の灯は向こうで微かに揺れて今にも消えそうになった。


しばらくして、身体は何とか落ち着いたけれど、何百年と経って、またあの苦しさが戻ってきてしまったことに、私は恐怖を感じていた。


もしかしたら、私はあの時みたいに、また苦しみ続けるようになってしまうかもしれない。また眠り続けることになってしまうのかもしれない。


・・・・そして何よりも、凛歌に迷惑をかけ続けることになるかもしれないし、もうあの歌声を私は聴けなくなってしまうかもしれない。


「ねえ・・・・どうしよ・・・・どうしたらいい? どうしたらいいの・・・・?」



どうしようもない現実に、私はただただ泣くことしか出来なかった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る