第18話 嵐の前の静けさ

大学で過ごした四年間は本当に刺激に溢れていて、楽しくて・・・・そして、一気にどんでん返しのような波乱が起きたりで、本当に複雑な時間を過ごしたんだ。


僕は、音大で声楽を先行する形となり、四年間必死にくらいついて勉強をしていった。


以前合唱団にいた時にも声楽に触れていたから、割と楽な物かなと思ったけれど、実際はそんなことなくて、また新たに覚えなきゃいけないことも多くて、大変だったけれど、本当に楽しいひと時だった。



そして大学で何より面白かったのは、とにかく色々な方向を向いている友達が沢山できたことだ。


例えば一口に歌を歌うのが好きな人でも、僕のようにソロで歌うのも好きな人がいれば、オペラが好きな人がいたり、混声合唱が好きな人がいたり。


他の学科で演奏技術や作詞作曲を学ぶ友達もできて、とにかく濃い人間関係を構築できたことが、本当に楽しかった。


そして、僕もそんな友達たちの影響を受けたり、時に教え、教え合ってどんどん力をつけていけたし、僕の夢である歌手になるために必要な事も少しずつ身に着けていくことができたんだ。 そして、大学生活も折り返し地点になったある時、僕はあるチャンスを掴むとこまで来ていたんだ。


僕は、ある友達の父親が代表をしている音楽プロダクションのオーディションに誘われたんだ。


そのプロダクションは、業界の中でも比較的新参でありながら、数々の若い天才アーティストを輩出していることで有名で、ひそかに僕も気になっていたところだった。


「ええっ!?!? そんな美味しい話もらっちゃってもいいの!?!?」


「なあに、凛歌と僕の仲じゃないか。お父さんも君の話を聞いてえらく興味を持ったみたいでね。 ・・・・どうだい? 乗ってみるかい?」


「もちろん! 是非是非!! お願いします!!」


二つ返事で僕は了承した。 遂に頑張り続けた努力が実を結びそうになった、そんなめぐりあわせに僕は胸を震わせた。


そして、家に戻ってからおじいちゃんにも報告した。


「おじいちゃん!おじいちゃん! 僕、遂にオーディションいけそうなんだ!! 遂に夢に届きそうだよ!!!」


「おおお!!!凄いじゃないか!!! ・・・・ゲホッゴホッ・・・・つ、遂にそこまで来たのか!! ・・・・俺ウルッときちゃいそうだよ・・・・。」


「ハハハハ。おじいちゃん気が早いってば。オーディションは二か月後にあるみたいだから、結果楽しみにしててよ!」


「おう! 楽しみにしてるぞ! 全力を尽くしてこい!! ・・・・・・ゲホッゴホッ・・・」

「おじいちゃん、咳大丈夫? なんかさっきから結構してるけど・・・。」


「大丈夫、大丈夫。・・・ちょっと風邪ひいただけだから。・・・・とにかく、オーディション、頑張ってくるんだぞ!!」


おじいちゃんは一瞬目を逸らしたけれど、最後にサムズアップをして、笑顔で答えてくれた。


「うん、思いっきり、かましてくるよ!!」


僕もそれに笑顔で答えて見せた。



そこから僕は、毎日今まで以上にもっと練習やボイトレに熱が入った。


もうすぐに迫った夢への登竜門。憧れ続けた場所への切符。僕の身体の中の血が、沸騰しそうになるほど、僕の心は今までで最大に昂っていた。


絶対にチャンスをモノにしてみせる!! 僕は夢への頂にたどり着くための準備を着々と進めていた。


しかし、そんな時の事だった。いつだって、なぜか悪いことって大事なことの前に起きるんだ。

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