第16話 唄との出会い

僕は、昔歌う事が大好きだった。 何歳の頃の頃だったかは細かく覚えてなかったけど、とにかく物心ついた時から好きだった。


歌って自分の幸せな気持ちを表現することは楽しかったし、旋律に合わせて声を乗せていくことは気持ちがよかったし、何より歌った時にみんなが嬉しそうな、幸せそうな顔をしてくれるのが凄く嬉しかった。


歌う事で、自分も幸せな気持ちになるし、誰かを幸せにすることができる。


こんな楽しくて幸せな事他にないと思った。



そして、そんな歌う事の素晴らしさを、最初に僕に教えてくれた存在が一人いた。


おじいちゃんだった。 僕は幼い頃、両親が共働きで忙しいこともあって、おじいちゃんの家に預けられていたことが多かった。おじいちゃんは、本当に多趣味でクルマ弄り、機械弄りが本当に得意だったし、模型作りも料理作りも上手だった。


僕は、おじいちゃんから色々な遊びをいつも教えてもらって、いつも楽しく過ごしていたんだ。


そして、そんなおじいちゃんが一番の趣味にしていたことが歌だった。


おじいちゃんは学生時代から軽音楽を嗜んでいて、ずっとギターボーカルをやり続けてきていたのもあって、ギターもさることながら、歌がものすごく上手だった。

おじいちゃんが趣味でやってるバンドの演奏会に僕はよくついて行って、演奏を生で見ていたけど、本当に心の底から感動したんだ。


ギターやベース、ドラムが奏でる刺激的で美しい音色、そしてそれに負けないくらい強かでカッコいいおじいちゃんの歌声。



まだ幼かった僕には、あまりに刺激的で、あまりにもカッコよくて、美しくて、それはもう輝いて見えたんだ。


そして、僕もいつしか歌を嗜むようになっていった。


幼稚園の頃も歌の時間は一生懸命に歌った。誰よりもたくさん歌った。


そして小学校に上がり、僕は合唱団に入った。


そこは僕にとっては更に衝撃的なところだった。今までは、ただ力任せに歌っていただけだったけれど、この頃から声楽というものにも触れた。 ただ力任せに歌を歌うだけでは歌は上手く歌えない。 


どうやったら声をしっかりと張る事ができるのか、声量を増やすことができるのか、どうやったら響かせることができるのか、どうしたら楽器のように美しい声を奏でることができるのか。 もちろん、最後に大事なのは気持ちなんだとは思うけれど、それに理論を身に着けることによって、もっと高みを目指せる事が分かったんだ。


その後、合唱団は中学時代までいて、高校に上がってからはかつてのおじいちゃんと同じ、軽音楽部に入ったんだ。


軽音ではバンドを組んで、みんなで楽器を演奏して、音を合わせ、そして一つの音楽を完成させる。最初は息を合わせるのも精いっぱいだったけれど、呼吸を合わせて完成させていくことが、本当に楽しくて仕方なかった。そして、もちろん僕はボーカルをやっていた。


昔、おじいちゃんに見せてもらってた、あの憧れの舞台に立てたことは、本当に僕にとって感慨深いものだったんだ。


今までも合唱団にいた時もコンサートホールでみんなと歌ってきていたけれど、バンドマンになり、ライブハウスで歌うようになって狭い空間の中で、聴いてくれてるみんなの熱気を感じながら、歌を歌いあげることは、今までにない気持ちよさを知ることができたんだ。


そして、バンドマンとしてやってきて、コンテストで少しいい成績を取ることができた時は本当に嬉しかった。


そして、高校生活も終わりに差し掛かった時、僕は人生の岐路に立たされた。


そう、進路選択というものに。

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