エピローグ

第40話 穏やかな日々①〈グレイシアside〉

 時は流れ季節は巡る。


 この国の静かなる政権争いもやっと終わりを迎え平穏が訪れていた。


 秋の収穫祭が終わり、私もやっとゆっくりと居間でくつろげる日常に戻っている。




「グレイシア様、書状が参っております」


「ありがとう。──また国王陛下からだわ……」




 銀のトレイに乗った封筒には、一目でそうと分かる封蝋ふうろうが押されていて、手に取るのを一瞬躊躇ちゅうちょした。


 でも読まないわけにはいかないだろう。




 ──親愛なるグレイシアへ




 そんな書き出しで綴られた手紙にはいつもと変わらず、クラウン陛下のが書き連ねられていた。




 長いので要点だけ言うと。


 ヴィクターを何とかして欲しいのと、マイティー王妃殿下がもっと夜会に出るように、彼女の説得と相手を頼むということ。




 前国王陛下が突然隠居いんきょすると言い出し、どういう訳か揉めることもなく、あの仕事嫌いのクラウン殿下が国王に即位したのが半年前。




 国王でなければ困る事はいくらでもあり、今までのようにそのほとんどを側近任せにはできなくなっている。


 でもどう考えたって、国王が毎日遊んで暮らせる国はそう多くない……というか、たぶん無いだろう。


 それでもヴィクターもヒポクリットも、マイティー妃ですらクラウン陛下を戦力外と見做みなし、彼には最低限の仕事しか振ってないはずなのに……。




 まったく、あのボンクラ王子──いやもう国王か。


 少しは頑張ろうという気になれないものか?


 そしてなぜ私に助けを求める?




「私なら何でも助けてくれるとか思ってるってこと? もしかして私、舐められてるのかしら?」


「そんな事ないよ。シアなら助けてくれるって、無意識にそう思ってるだけだろ」




 独り言に返事があって驚いた。


 振り返ると庭に続くウッドデッキから、ヴィックが入って来たところだった。




「あら、もうお散歩は終了?」




 意外に早かったと思い、よく見れば……。




「うん。派手に転んでね……」




 そう言って腕に抱いていた男の子の顔を覗き込む。


 ヴィックの腕の中でいつの間にか泣き疲れて寝てしまったようだ。




「あらまぁ……それで怪我は?」


「大した事ない。それより驚いていたし、怖かったんだと思う」


「そう。怪我が無くて良かったわ」




 ソファーの隣に子供を抱いたままのヴィックが腰を下ろす。


 ヴィックの膝に乗せられているのは、彼の子供の頃そっくりなメイル。


 一歳になったばっかりの私たちの息子だ。


 ヴィックと意気揚々と庭へ散歩に出たのだけど……屋敷内と違って、芝生の上でも転んだら痛かったのだろう。




 部屋や廊下のように絨毯は張ってないものね。

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