第7話 証拠とは……?

 私が何も言わないからそれを好機と受け取ったのか、そのまま畳み掛けるように語り続ける。




「僕は飼育員と共に他の餌を確認しましたが、他の物には混ざっていませんでした。そして専門家に調べてもらったところ、特殊な毒が検出されました」




 フールはドヤ顔でそう言うと、得意げにルーザリアに振り返った。


 ルーザリアもクラウン殿下の腕の中で満足そうに笑って頷いている。


 これで私の罪が確定したと思っているとしたら、相当におめでたい頭の持ち主なのだろう。


 私はため息を我慢して、殿下に向き直り質問する。




「それで、なぜ私が犯人なのですか?」




 ルーザリアとフールが怒りの表情で私をにらんだ。


 面白いほど予想通りで苦笑してしまう。


 しかしクラウン殿下は冷静だ。


 静かに一歩踏み出すと、この場にいる全員に届くような声で言い放つ。




「それは、この国では王宮の温室でしか育てていない、珍しい花から取れる毒なのだよ」




 つかの間の静寂の後、一斉に会場内が騒めいた。




「……そういうことですか」


「残念だよグレイシア。この学園であそこに入れるのは、王族とそのゆかりの者のみ。私ではない以上、君以外考えられない」




 クラウン殿下は清々しいほどの決め付けっぷりで、私が犯人だと断言した。




「それで私の私物から毒の残りでも見つかったのでしょうか?」




 それとも現場に私が犯人だと分かる何かがあったとか?


 念のために聞いてみる。




「いえ、そうではないですが……」


「でも! あの温室に他の人は入れないって、殿下も言ってたじゃないですか」




 フールの勢いが落ちるとルーザリア嬢がかさず言い添える。




「あの温室に入れるのは、王族とその婚約者だけというのは本当です。それと付け加えるなら……疑いたくはないですが、世話する者も入る事は可能です」


「そんなので言い逃れるつもりなの?」


「いいえ。……ただの事実です」




 上品に笑って見せればルーザリア嬢が悔しそうに手を握りしめる。


 爪が手の平に食い込んで痛そう。




「それからもう一つ。あれは本来薄めて薬として使用するものです。ですから生成されていない純度の低い物なら一般市民の医者でも手に入れられるんですよ?」


「それは本当か!?」




 黙ってこちらを睨みつけていたクラウン殿下が驚きの声を上げた。


 物知らずの御坊ちゃま殿下。


 このまま他人のフリして放置したいと思った私を許して欲しい。


 この王子、絶対王様にしたらいけない人だ。


 すぐ人に騙されて、国中が滅茶苦茶になる予感しかしない。


 私はすべて終わらせる気で、クラウン王太子殿下の後ろに控える側近候補生の中から見知った顔を探し当て、彼を視線だけで呼び出した。




「失礼します」


「ヴィクター、何だ?」


「あ、いえ……」


「そうか、お前はグレイシアとは幼なじみだったな。良かろう、ヴィクターが見事説得できれば、罰の軽減を認めてやる」


「え? そうですか? ……ご好意感謝します?」




 ヴィクターはどう返事するべきか迷ったみたいだ。


 首を傾げつつ苦い顔でこちらに歩きながら「なんで今……」とか呟いてる。


 確かにこの場で呼び出すことになろうとは、私だって想定外。


 しかしここまで話がややこしくなってしまうと、私にも味方がいないとやり辛いのですよ。


 きっと彼には彼の予定があっただろうから申し訳ないと思うけど、幼なじみのよしみで付き合ってもらいたい。

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