第31話

 バレンタインデーの翌日。


教室に入ってきた美玖は窓から外を眺めている彩の姿を見つけて

「彩、おはよう!昨日どうだった?」と言いながら近づいて横に並んだ。


「おはよう……」と答える彩に元気がないのに気づいた美玖は


「どうかした?ユート先輩にチョコ渡したんでしょ?」


「ううん、渡してない。ユート先輩には彼女さんがいるみたい。女の人からチョコもらってるの見たんだ」


「彼女って決まった訳じゃないでしょ?」


「ユート先輩、嬉しそうに受け取ってたもん。楽しそうに話してたもん。私が入るスキはなかったよ」


「それだけじゃ、分かんないよ。私がユート先輩に確かめてみようか?」


「ううん、やめて。部活がやりにくくなるから。このままでいいよ。何も言わなければ今まで通りユート先輩とも上手くやっていけると思うから」


「彩がそう言うんだったらいいけど、じゃあ、今日、部活が終わったら、久々に『来夢らいむ』に行こうか?特上パンケーキ食べたら元気出るよ。チョコ作るの教えてもらったお礼に今日は私が奢るよ。うん、そうしよう」美玖は彩の返事を待たずにそう言った。




 放課後、部室に行ったら、悠人はいつもと変わらない様子だった。

彩は何故か気まずくて悠人の方をあまり見ないようにしていた。

美玖や春香と生徒から集めたお昼に流すリクエスト曲をチェックしたりして「この曲いいね」とか言いながら選んでいた。


翌日流す曲やその他の段取りが出来たので

「準備も出来たのでそろそろ、終わりますか」と言う悠人に

「そうだね」とみんなそれぞれ机の上のCDや書類などを片づけ始めた。

彩は悠人がずっと自分を見ているような気がしたが知らぬふりをしていた。

すると、悠人が

「すぐ帰る?」と彩に向かって聞いてきたので


「はい、美玖と約束してるので」と言いながら美玖の方を見て

「ねぇ、美玖」と言うと


「そう、じゃあ、また今度……」と悠人は何か言いたそうだったが


「お先に失礼します」と言って彩は美玖の手を取って足早に部室をあとにした。


下駄箱まで来ると美玖が

「何かユート先輩、彩に用事があるみたいだったね。カフェに行くの今日でなくてもいいよ。ユート先輩に聞いてみたら?何か用事ですか?って」


「いいよ、今更戻っても何しに来たって思われるのヤダし、もう私パンケーキ食べる気満々だもん」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇




 彩は何故、悠人を避けようとしているのか自分でも分からなかったが今までのように素直な気持ちになれなかった。

(私がユート先輩を勝手に好きになって勝手に落ち込んでいるだけだ。ユート先輩は何も悪くないのに。こんな自分が嫌だ) 

彩はそう思った。


 彩は初めて知った。人を好きになるってこんなに苦しいなんて……。

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