第30話

 2月14日 今日はバレンタインデーだ。

彩は悠人に渡すための手作りチョコをカバンの中に忍ばせて学校に行った。

今日は授業中もなんだか落ち着かない。

下校前のホームルームが終わると美玖は彼と約束があるからと部活は休んで足早に教室を出ていった。


 彩は2階にある教室を出て1階の部室に向かうため廊下を歩いていた。

すると、廊下の窓から見える体育館の前に悠人の姿を見つけた。

「あっ、ユート先輩」

彩は体育館の前にいる悠人のもとへ行こうと逸る心で足早に1階に降りて行った。

体育館に向かっていると悠人は一人ではなかった。女の人と一緒だった。

二人は歩きながら体育館の裏の方に向かって行った。


 彩は二人に見つからないようにそっと近づいて行った。

女の人が悠人に何か渡しているのが見えた。悠人は照れくさそうに笑ってそれを受け取っていた。女の人は横顔しか見えないけど見たことのない可愛いらしい人だった。


(ユート先輩の同級生だろうか?もしかして私が知らなかっただけでユート先輩には彼女がいたのか?それとも今告白されてユート先輩も満更でもないのか?)


 考えてみたら彩は部活で会う悠人以外、悠人の事は殆んど何も知らなかった。二人は楽しそうに話している。ほんの短い時間かもしれないけど彩にはとても長い時間に思えた。見てはいけないものを見てしまったかのように彩の心は揺さぶられて苦しくなってきた。もう悠人にチョコを渡す気も失せていた。それどころではない。そのままその場を走り去った。部室にも顔を出さず、彩はそのまま駐輪所に向かい自転車に乗って家へと向かった。いつもの見慣れた景色がぼやけて見える。涙が次から次へと溢れ出る。どうやって家に着いたのかも覚えていない。


 家に帰るとすぐ部屋に閉じこもりひとしきり泣いた。思い切り泣いたら少し落ち着いてきた。彩は自分の気持ちに驚いた。こんなに泣いてしまうほど悠人を好きになっていたなんて。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る