第56話 純粋

「まさかの、柄までかぶった?」

箱の中から出てきたのは、僕が飛鳥のために選んだものの完全な色違いだった。

「そう、みたいだね」

飛鳥は箱の中を恥ずかしそうに見つめて、小さくそう呟いた。

「仲良しだね、僕たち」

「だね」

少し恥ずかしい言葉に、飛鳥は素直に頷いた。その飛鳥の表情に、胸が苦しく、でも愛おしく締め付けられた。

「巻こうか?」

飛鳥が小さい子が新しいおもちゃを持っているように、大事に持ってくれているマフラーを見て、僕はそんなことを聞く。

「う、うん」

飛鳥はその問いかけに、視線を外してそう言って僕にそのマフラーを差し出した。飛鳥の正面に立って、飛鳥の細くて長い首に柔らかくマフラーを巻く。

「どう?」

巻いた後、飛鳥は恥ずかしそうに上目遣いで聞いてくる。

「か、かわいい、よ?」

少しかっこつけて、クールに返してみると飛鳥は、

「ありがと……」

ポッと頬を赤らめて小さくそう言った。言った僕としては、完全に『かっこつけんな!』って返されると思っていただけに、胸の奥がキュンと鳴いた。

「日向の、貸して?」

「はい」

飛鳥にもらったマフラーを、素直に飛鳥に手渡す。飛鳥と僕の間には多少なりの身長差があるから、飛鳥はちょっとだけ背伸びをして、僕の首に丁寧に優しくマフラーを巻いてくれた。

「どう?」

同じように飛鳥に聞いてみると

「かっこいいよ……」

飛鳥は恥ずかしそうに俯いて、小さくそう呟いた。飛鳥のまっすぐな言葉に、顔が熱くなるのを感じた。

「ペアルックみたいになるのかな?」

横を通り過ぎて行く人たちが、こちらを見てニヤニヤと笑うので訊いてみる。

「そうだね」

「嫌だったら、外しても……」

飛鳥のことだからと思ってそう言うと、

「嫌じゃない」

飛鳥は短くそう言って、プイと顔を背けて速足で歩いて行ってしまった。

「ま、待ってよ」

飛鳥の隣に並んだとき、飛鳥の左手に僕の左手がぶつかった。

「あっ……」

去年もだけど、今年も勇気が出なくて慌てて手を引っ込めようとした時、飛鳥がサッと僕の手を握った。

「え?」

僕は飛鳥の手の温もりを感じているけど、飛鳥の方は気にも留めていない様子で足を動かしている。僕も、爆発寸前の歓喜の気持ちを胸の中にグッと収めて、飛鳥の隣を飛鳥のペースで歩いた。

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