第21話 ヤミ

「日向、なに見てたんだろう」

私がリビングに入ってきた途端、日向がテレビを消したような気がして、私はリモコンの電源ボタンを押した。すると突然、

『大好き!』

『僕もだよ!』

べたべたベタベタと抱擁を交わし、イチャイチャしているカップルの映像が目に飛び込んで来た。

「何コレ。気持ち悪い……」

私はすぐさまテレビの電源を落として、ソファーにドサッと凭れた。

 あんなの恥さらし以外の何物でもない。私はずっとそう思ってる。人前でイチャイチャ、ベタベタとか、身を寄せ合って自撮りとか――。どうしてあんな所業に至るのか、私には到底、理解することが出来なかった。

「ハァ……」

小さくため息を零して、ソファーの上に横になる。すると、ダイニングテーブルの上で、日向のスマホがブーブーと振動を始めた。私はソファーの上から、

「日向、電話~!」

普段出さない大きな声を出すけれど、彼の返事はない。

「もう……」

私は渋々、ソファーから起き上がって日向のスマホを手に取った。そして、彼のいる浴室にスマホを持って行って、

「電話」

と端的に言うと、ザーッというシャワーの音がピタリと止まって、

「ありがとう。そこに置いておいてくれる?」

という彼の優しい声が返ってきた。

「わかった」

私は身体を拭く大きなバスタオルの上にスマホを置いて、リビングに戻った。

「電話、誰からだろう……」

昼間に見たワイドショーの内容が頭を過った。

 ――絶対に、それはない……

言い聞かせるように心で唱えるけど、そう言えるだけ自信も根拠もない。

 私はまた、見えない敵に心を蝕まれていた。

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