第13話 再確認

 疲れた体でようやく食器を洗い終えて、タオルで手を拭いソファーの上にドサッと倒れこんだ。

 ――やっと一息吐けた……

やわらかいソファーの上で、今日一日の出来事を思い返してみた。


 朝起きて、顔洗って、歯磨いて、朝飯食って、長い講義受けて、学食食べて、家庭教師に行って、帰ってきて、今……。


「飛鳥との写真。一枚もなかったな……」

前まで気にしてなかった、この事実。これまで感じていなかった、虚無感とか疎外感とか、そう言う感情が心に湧いてきた。

「お風呂あいたよ」

飛鳥は、長い黒髪をバスタオルで拭いながらリビングに入ってきた。

「うん。それじゃあ、行ってくるね」

急に戻って来たから、僕は咄嗟に表情を取り繕って、飛鳥の隣を通り過ぎた。その時、背後からいきなりお腹に手が回され、優しい温もりを背中に感じた。

「飛鳥?」

動揺して後ろにいる飛鳥に声をかけると、

「今日はお疲れ様。よく頑張ったね」

彼女は短く、とても優しい声でそう言ってくれた。こんなにもささやかな言葉なのに、僕の心は途端に早鐘を打ち始めて、一日の疲れという疲れをどこかに吹き飛ばしてくれた。

「ありがとう。それより、早く乾かさないと風邪ひくよ?」

「うん……」

照れたようにそう言って、コクっと小さく頷く飛鳥が、いつになく愛おしく思えた。


 全身の汗をきれいに洗い流して湯船に浸かる。これまでの思い出、さっきの飛鳥の言葉と行動。すべてを思い返して、僕は改めて、飛鳥のことがこんなにも大好きなんだと気づくことが出来た。

 そういう事で、今日はすごく良い一日だった。

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