22

 結局、僕はその日、何もお願いしないで終わった。

 急に願いをなんて言われてもパッと浮かんでこない。


 翌日は愛子の件で大変だった。


 婚約者だった僕は、泣いている愛子の両親の前で辛そうな表情をする。


 辛そうな・・・か。

 僕は自分の感情が分からない。

 


 会社の同僚からも心配され、何通かラインが届いていた。


【ありがとう。心にポッカリ穴が空いた気分だけど、なんとかやっていくよ。心配してくれてありがとう】


 心にも無い文章を送った。

 返事をイチイチ返すのが面倒だった。


 何もやる気が起きない。

 宇宙人は相変わらず微動だにしない。

 願いを叶えてくれるとは言っていたけど、願いなんて浮かばない。


 金が欲しい訳でも可愛い彼女が欲しい訳でもない。


 満たされない。

 経験した事の無い【何か】で満たされるのかも知れないが、そもそも実行する気力すら起こらない。


 ヤバいと思う。

 

 なんとか考えてみる。

 考えなければ浮かばない欲とは・・・


 そうだ、別に欲に走らなくても良いのでは?

 物欲、性欲とか、承認欲求を満たしたいとか、そんな思考を巡らせるから駄目なんじゃないかと気づいた。


 それ以外の何か。


 ふと、思いつきのように浮かんだのは、自殺した前橋築希の事だった。


 どうして自殺したんだろうか?


 何が彼をそうさせたのか気になった。


 動機はそれだけだ。

 特別、知りたい訳でも無いが、本当になんとなく気になった。


「あの~、宇宙人さん?」


 勿論、応答は無い。


 しかし、実際は願いなんてのは半信半疑で、実験的な兼ね合いで言ってみた。


「自殺した前橋築希を生き返・・・いや・・」


 言葉が詰まる。

 これで、万が一、築希が復活・・ってか、生き返ったら大事だろ?

 半信半疑とは思いつつも、こんな得たいの知れない謎の宇宙人が目の前にいる事が現実感を薄れさせている訳だし。


「僕だけにしか見えない・・そのー、あぁー、霊的な奴で召喚?的なノリでお願い出来ます?」


 言ってて、我ながら雑な願いだなと感じた。



 暫く待つも応答は無い。


【その願い聞き届けたり】とかも言ってくんない。


 アホらしい。

 ふざけてギャルのパンティをくれとか言えば良かっ・・・ー



『流樹?』


 振り向くとそこには・・・


「き、築希?」


『えっ?いや・・なんコレ?』


 動揺した築希が宙に浮いていた。

 あの頃のまま、そう、自殺する前の僕が最期に見た頃の築希がそこにいた。


「えっとー、その・・・」


 言葉に詰まる。

 てか、築希の姿が半透明なんが笑える。


『はー、てかガチ流樹なん?』


 僕の部屋をキョロキョロ見渡す築希。

 築希はテンパっている様子だ。


「イ、イエス!ガチ流樹である!」


 親指を立てて僕は答えた。

 築希もそうだが、僕も動揺している。

 

 だって、本当に築希が生き返るとは・・・いや、生き返っては無いが、築希とこうやって会話が出来るとは思ってなかった。


 

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エタイノシレナイ 双葉 琥珀 @saku07

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