19

 ーーあれは丁度二年前の今頃だった。



 仕事が終わり、帰ろうとしていた時に築希から連絡がきた。


 高校を卒業して以来の連絡に一瞬戸惑った。

 何年も音沙汰が無かった奴からの急な電話は嫌な予感がするからだ。


 でも実際は、全然そんな事は無かった。


「お、おう?」


「久しぶりやね流樹!」


 あっけらかんとした声だった。


「あぁ・・いやー、どうした?」


「久しぶりに流樹に会いたなって連絡してみたわ!今から一緒に遊ばない?」


「きゅ、急やな。まぁ・・別にいいけど」


 陽気に語るその口振りは昔のままだった。

 築希は僕のアパートへ来る事になった。


「さっむ~」


 両腕を擦りながら築希は現れた。


 久しぶりに会った築希は、高校の頃の雰囲気とはガラっと変わっていた。

 長かった髪もバッサリ切って角刈りだった。

 それでも腹が立つ程のイケメンっぷりは変わらない。


 ニカっと笑った表情も当時のままだった。


 お互い、高校を卒業してからの道程を語り、当たり障りの無い近況を言い合ったとこで僕は築希に尋ねた。


「それにしても急に連絡が来たからビックリしたよ。何かあったのか?」


「うん。最後に流樹に会っておこうと思ってな!」


 築希がそう答えたので、仕事で県外に行くんだろうと思った。


「出張か?」


「・・・いや」


 否定する築希に首を傾げた。


「・・じゃぁ、なんで?」


「お別れ・・したくてな!」


 声音は重かった。

 僕の方を見ないでジッと窓の方へ視線をやる築希。


「はぁ」


 訳が分からない僕は覇気の無い返事をした。


「ゲームしよっさ?」


「どこの方言だよ・・まぁいいけど!」


 それから二人で高校の頃によくやっていたレースゲームをした。

 プレイ中、互いに少ないながらも会話を混ぜつつ一時間位過ぎた頃だ。


 暫くゲームに集中して、沈黙の時間が流れ、唐突に築希は告げた。


「あのさー・・俺、もうちょいしたら死ぬわ!」


 陽気な口調に、当時は何言ってんだコイツ?程度に思っていた。


「ん?・・どこか悪いん?」


「いや違くて、自殺するわ!」


 笑いながら築希は答えた。


「なんか重い病気的なやつになったのか?」


「違うって!まぁ・・もうえーかなって・・」


「何がだよ?」


「死ぬしかないっしょ的な?」


 声音変わらず陽気に築希は言った。


「んー、どしたん?ボケにしてはキレが悪いけど?」


「ガチやって!」


 ゲーム画面に集中しながらそんな事を告げる築希に対して、僕はこれ以上突っ込むのを止めた。


「死ぬ前にやりたかった事を大体済ませたからな!」


 死ぬ前とか言ってんのは、あえてスルーして僕は尋ねる。


「やりたかった事って何?」


「色々やったよ!・・街で喧嘩ふっかけたり、食べたこともない高級料理食べに行ったり、風俗とか行った事無かったから片っ端から行ったり・・・・そんなとこやな!」


 首を傾げる僕。


「風俗とか行かんでも・・築希は昔からモテてたじゃん?」


「いや、そういう事じゃないんだけどな」


「はぁ」と気のない返事をした。


 それから築希は陽気な口調で続けた。


「最後に覚醒剤とか大麻やってみたかったなぁ」


「はは・・捕まるだろ?」


「死んだら関係ないじゃん!」


 そう答える築希に、「そうですね」と棒読みで返した。


「後、これは本当にしょうがないんだけど、ランランの続きは気になるなぁ~」


 休載中の僕らが好きだった漫画【ランナー×ランナー】の略称だ。


「そだねぇ~」


 棒読みで返し、内心いつまで続くのこのくだり程度に考えていた。


 それから23時を回ったとこで築希は帰ると言った。


「今日は楽しかったわ」


 玄関先でそう告げる築希。

 そんなに楽しかったとは思わない僕。


「お、おう!そんじゃ・・またな!」


 僕が答えると築希は白い歯を見せ笑って言った。


「んじゃ、ちょっと死んでくるわ!」


 まだ言うかと呆れ気味な表情で僕は見送った。


 それから翌日。


 チョクから電話があって築希が自殺した事を告げられた。


 自宅の物置小屋にて首吊り自殺を図ったらしい。

 職場も1ヶ月以上前に止め、築希の部屋から遺書も見つかったそうだ。


 近場のコンビニに買い物に行くようなノリで言われても信じられる訳がなかった。


 築希なりの・・築希らしい死に方だ。


 重い感じで言われたら、こんな僕でも説得しただろう。

 だからあんな軽いノリで言ったんだと今にしては思う。


 高校の頃、築希は良く言っていた。


「何も楽しい事が無い」


 僕と二人でいる時、たまにネガティブな言動を言っていた。

 普段は陽気で周囲からも慕われ、前向きな姿を見せていた築希。

 顔も良く、家柄にも恵まれ、順風満帆な日々を送っているように見えた。


 そんな築希が何故僕にだけ、愚痴を言っていたのかは分からない。

 ニコニコと周囲に愛想を振るのに疲れて、僕にストレスをぶつけていたのかと考えたりしたが、何か違う気がした。


 不思議だった。

 闇が深いなと一言で片付けていた。


 築希が生きている頃に、この目の前にいる宇宙人さんを見ていたら何か変わっていたのかも知れない。


 たらればを言っても仕方ないが、僕は今、愛子の死より宇宙人さんの事が気になって仕方ない。


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