17

 当たり前のように部屋に戻った。

 それからごく自然に携帯を取り出し、愛子の自宅に電話を掛けた。


 なかなか電話に出ない。

 まぁ、バタバタと慌ただしくしてるのは当然だろう。

 暫くして愛子の母親が出た。

 声にならない弱々しい声音だった。

 同じく弱々しく返す僕。


「ごめんなさい。気持ちの整理がつかないので落ち着くまで・・・はい」


 母親は察してくれた。

 いや、騙されてくれただな。

 電話を切って職場に電話を掛けた。

 冷静になって、そういえば職場に休む旨を伝えて無かったと思ったからだ。


「はい、あっはい・・そうです」


 職場には愛子の両親が、愛子が亡くなった事を伝えていたようで、わりとすんなりと話しは終わった。

 上司は僕の声音を察して優しく言ってくれた。

 周りから見たら、来月結婚を迎えるはずだったのに相手が亡くなって可哀想だと思っているからだろう。

 


 携帯をテーブルに置きベッドにダイブした。


 寝そべった状態から首を動かし宇宙人を見る。


「なんや?」


 答えない。


「文句あるんか?」


 答えない。


「意味分からんし」


 僕は枕に顔を押しつけた。


 何も考えたくない。

 このままずっと寝ていたい。

 ボーっと何も考えずにいると、ウトウトしてきた。


『お前の望んだ事だろう?』


 ロボットのような声がした。


 えっ??


 聞き慣れない声の方へ振り向く。


 たしかに宇宙人の方から声がした。


「・・・・あの~?」


 いや、嘘だろ?

 たしかに声はした。

 幻聴なんかじゃないはずだ。


「おま・・・あなた様でしょうか?」


 低姿勢で尋ねるが返事は返ってこない。


 僕が望んだ事・・・


 はっきりとそう聞こえた。

 まさか僕が・・愛子を・・死んで欲しいと願ったとでも言いたいのか?


 そんな訳無いだろ。

 確かに腹がたつ事は多々あったが、死んで欲しいなんて・・・・


 僕が望んだ事・・・





 そうだ。


 僕は・・・・・


 愛子が死んで欲しいと・・・


 願っていた。

 違う、願っていたは語弊がある。

 正確には、そんな風に考えた事があっただ。


 思い出した。

 だが、それは冗談の範囲で思った事であって本心からの言葉ではない。

 ちょっと腹を立てて大袈裟に言って・・・いや、そもそも口にはしていない。

 そうだ、それは間違いない。

 たしか、数日前に愛子と居酒屋に行った時だった。

 軽はずみで思った事が実際に起きた。

 言霊とか迷信じみたことは信じていない。

 いや、声に出してはないから言霊とか関係無い。

 僕が望んだ事が実際に起きるのであれば説明はつくが、それにしてもにわかには信じがたい。


 僕が願った事をコイツが叶えたと解釈は出来ないか?

 コイツがさっき言った事をなぞると説明はつく。

 だけど、この宇宙人に初めて会ったのは昨日の晩だ。

 宇宙人と会う前に思った事を叶えるか?

 それだと幼少の頃から、ムカつく奴を相手に死ねと心の中で思った事も現実に起きるはずじゃないか?


 駄目だ。現実離れし過ぎて混乱する。

 普通に考えれば、愛子が事故を起こした事は偶然であると考えるべきだが、コイツの発言が僕を悩ませてくる。

 どうして僕の思考を・・それも数日前の事をコイツが言い当てたのか?

 

 分からない。

 その時の軽はずみな思考が原因で愛子が死んでしまったのであれば僕は犯罪者ではないか?

 コイツも一言、意味深げに言ってからはダンマリを決めやがってるから余計に考察してしまう。


 もしかしたら今僕が考えている事もコイツには・・・いや、その・・宇宙人さんには筒抜けなのか?


  

 

 


 


 

 




 

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