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「なんなんアイツ・・」


 牟呂が呟く。


「まぁまぁ、研修中っぽいし、しょうがないよ!」


 慶悟がそう言ったが、牟呂は小馬鹿にした口調で言い返した。


「はっ・・俺、ああいう抜けとる奴は嫌いやねん」


 この程度の出来事で愚痴る程でもないだろ。


 僕を含め、周囲の友人は苦笑いを浮かべている。


 それからもグチグチと、しょうもない悪口を続けていた。


 ああ直ぐにでも帰りたい・・・

 今すぐ帰って一人になりたい。

 

「大変申し訳ありませんでした。ご注文のタコわさになります」


 先ほどのJKがペコペコとお辞儀をしながらやってきた。

 何度かお辞儀をして、タコわさを置いて出ようとした時だった。


「おい!!」


 牟呂が叫んだ。

 僕達はビクっとなった。


「なんで春巻き持っていかんの?」


「あっ、ああ、すいません」


 慌てた様子で春巻きの皿を手に取る店員さん。


「・・てか、ついでに食べ終わった皿とかジョッキ持っていけや」


「すす、すいません」


「こんな事、いちいち客に言わすなよな?」


「は、はい。申し訳・・ー」


「てか、なんで春巻きとタコわさを間違えんの?どう勘違いしたらそんな事になんの?」


「そ、それは他のお客様に出すのを、その・・間違えて」


「はっ、言い訳すんなよ?」


 お前が聞いたから答えてんだろ・・・

 

「ほほ、本当に申し訳ありませんでした」


 そう言って、またしても何度もお辞儀をする店員さん。

 見ていて可哀想になってくる。


「ん!もうえーからはよ行って!」


 遮り、牟呂は煙たそうに言った。


「し、失礼します」


 告げてバイトの娘はペコっと頭を下げ出ていった。

 

「はっ、ホンマ使えん奴やわ」

 

 笑って馬鹿にする牟呂に対して相槌を打つチョクと長谷やん。


 こんな飲み会の何が楽しいのか・・・


 お客様は神様だと勘違いしているのか?

 腹だたしくも何も言い返せない。

 それは単純に・・揉めるのが面倒だからだ。


 飲みの雰囲気をぶち壊したくないのと、揉めた後の事を考えると、口を挟むのは損でしかないと皆が理解しているからだ。


「まぁまぁ・・飲も飲も!」


 恭平がグラスを掲げながら言った。

 手に取るように気を使っているのが分かる。

 

「うん。そ、そうだな!」


 続けてチョクも愛想笑いを浮かべながら便乗する。

 独特な空気の中での飲み会である。


 それからは仕事の愚痴、社会の不満、家族との人間関係なんかが話題になり、グダグダな内容の飲み会が終わった。


 帰り際に牟呂がトイレに行ってる間、他のメンバーがブツブツと文句を言ってた。


「俺、もう少ししたらアイツにキレそうやったわ!マジで危なかったわ」


 稔が笑いながら言った。


「つか、店員の娘が可哀想やったなぁ」


「アイツは昔から、ああゆう奴だからな!今後はあんま関わらない方がえーわ!」


 牟呂のいない所で各々が愚痴をこぼしていた。

 本人の前では面と向かって言えない為、面白い位に悪口が続いていた。


 それから皆に別れの挨拶を済ませ帰路につく。


 時刻は22:30


 くだらない1日が終わった。


 そして明日は結婚式の打ち合わせで式場に向かわなければならない。


 考えるだけで憂鬱だ。

 

 結婚・・・




 したくねぇなぁ。







 



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