第3話 コウリガシ

 駄菓子屋。だだっ広く手入れの行き届いていない土地。上京したての田舎者が高いビルに見下され地面に飲み込まれるのと同じように、僕の皮膚から拡張された感覚が、帰着点を失い延びきってしまってるのが分かった。

 さっきまで子ども達がここらを囲って遊んでいたはずなのにハーメルンの笛吹きと共に帰ってしまったようだ。作りかけの泥団子、端に転がるサッカーボール。今にもゴミ箱が溢れかえりそうだ。これはお菓子のゴミだろうかハズレなどと書いてある。都会っ子とはえらい違いだ。あいつらは歳の割に大人びていて、小学生でも中学生、下手したら高校生と間違われる。そして中身のない大人のような遊び方をする。その点、子供らしさを体現し得る田舎というこの場は、管理のし易さからまさに大人の理想と言えよう。とか何とか1人語りしていたところ、駄菓子屋のお婆さんは早く買って帰れと言いたげな顔をしてこちらを見ている。子どもに準備していたお札チラ見せをやってみたところ、余計にお婆さんの眉間を深くしてしまった。ボクはモロッコヨーグルトなるものとホームランバーを買い、お婆さんの視界から逃れることにした。

 店を出ると横に女の子が啜り泣きうずくまっている。店に入る時は居なかった筈だがと少し考えた。考えながら舐め回すようにその少女を観察してみると。靴の先は泥で汚れてしまっており、ワンピースは水で濡れているのか体に張り付くよう覆っている。こんな短時間に雨でも降っていたのか。降っていたとしてもこの子の濡れ様はそれとは違う。

 声を掛けても良いものか。まだ自分の年齢であればセーフなのだろうか。お友達設定としていけるのではないか。別に怪しいものでもない、手にはお菓子だって持っている。そうみんな大好きお菓子さ。エサでつり、話だけでも聞いてみよう。

『あのぉ−、大丈夫ですか、、これ良かったら、、、、、ヨーグルトです、一緒に食べませんか。ボクはここら辺の子ではないので独りぼっちなんですよ。』

 女の子は唇を震えさせ怯えているようだった。続け様にもう一押し。

『隣、、座ってもいいですか』

 女の子はかぶりを振るだけだった。

水で少し濡れていたからかシャンプーの香りが僕の顔を撫でた。とてもいい匂いだ。

自然に顔が髪に近づいてしまう。まずい、このままではボクは危ないオジサンではないか。ボクの理性はちゃんと仕事をしてくれるはずだ。

『心頭滅却、心頭滅却…。』

ホームランバーの袋の先端を両指二本で挟み開けた。それと同時に女の子はこちらを見た。どうやらコチラの方をご所望らしい。

 『こっちにしますか??、、』

顔を傾けると目が合ってしまった。どこか吸い込まれそうな目をしている。女の子は顎を下に引くよう返答した。

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君の手招きに誘われて.. わたくし @anei_chitsujyo

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