第4話

 次の日の日曜日、茶葉専門店に行く。そこは車で一時間ほどの場所にある。距離的に気軽に行ける店じゃないけれど、私が知っている茶葉専門店はそこだけだった。

 国道をひたすら走り、とある交差点で右折をする。今まで片側四車線もある国道だったのに、一気に路地に入る。

 右折をして、少ししたら右側にお店が見えてくるはず。一度しか来たことがないお店なので、なんとなくの記憶だった。一度は通りすぎてしまったけれども迂回うかいして無事に到着。


 なんと、店休日だった。ショックだったが、調べてこないのは自分だ。

 日曜日だと営業していると思い込んでいた。SNSを見ると、普段は平日が定休日だけれど、今日は臨時休業だと書いていた。あちゃー、当たっちゃったなぁ。


 インスタントでれたお茶だと映えないし、次の休みまでお預けかな。私はすぐに切り替えた。いや待てよ、お菓子の賞味期限が今日までだった気がする。

 うーん、インスタントの紅茶や緑茶で淹れたとして、ティーポットの出番がないのか。せっかく揃えたのに。それもなんだかなぁ。

 焦ってもいいことがない、今がそれだし。ちゃんと茶葉も揃えてから写真を撮って投稿しよう。中身も伴わないとね。

 お菓子は実家にいるお姉ちゃんにあげよう。私はお茶とお菓子を一緒に食べる&飲むことにする!


    〇


 次の土曜日、無事に茶葉専門店は営業していた。緑茶と紅茶で迷った。どちらも淹れたときを想像してみる。


 緑茶の場合、茶葉をティーポットに入れてお湯を注ぐ。

 紅茶の場合、茶葉をティーポットに入れてお湯を注ぐ。カフェに行くと、蒸らしている間はティーポットに布をかぶせていることを思い出す。砂時計を置いてく店もあるなぁ。

 布、持ってない……。砂時計も持っていない。そのために今から揃えるのも面倒だなぁ。なら、緑茶に決めた。

 あまり高くない、通常の緑茶を購入した。そのまま一時間ほど運転して、先週行ったケーキ屋さんに向かう。


 緑茶を買ったので今回も和菓子を買おう。

 私はまっすぐ和菓子コーナーに進む。桃山や月餅げっぺいも美味しそうだけれども、やっぱり練り切りにした。見た目も華やかだし。

 先週と違うデザインの練り切りがあった。寒牡丹かんぼたんと書かれている。

 巾着きんちゃくみたいな形をしている外側は淡いピンクで、中は黄色。牡丹を表しているのかな。綺麗だな。

 先週と同じみかんと、寒牡丹を購入した。

 茶葉もお菓子も買った。茶器も揃っている。ついにオシャレな写真を投稿サイトにアップするときが来る。私の心は一人で盛り上がっていた。



 お昼ごはんを軽く済ませて、茶器を洗う。ガラス製なので割れないように気をつける。

 特にカップの内側が洗いにくい。おもちみたいに横にふくれた丸みを帯びたデザイン。シンプルで見た目は良いけれども、洗いにくいのは意外に難点だ。まぁいいや、私には愉しいティータイムが待っている。気合いを入れて洗う。


「はっ……くしゅん」

 くしゃみが出た。ぺき。


「ぺき……? なんの音?」

 嫌な予感がする。音がしたほうを覗きこむ。ティーポットとティーカップが接触している。嫌な予感が高まる。


 カップにひびが入っている。よく見るとティーポットには亀裂きれつが生じていた。くしゃみの拍子にぶつかってしまったのだ。

 私は落胆した。ひびが入った茶器は危なくて使えない。茶葉を蒸せる代替品は、ここにはなかった。カップだってそうだ。いつも私が使っているのは何かの景品でもらったマグカップだけだ。友達が来た用もマグカップにしている。

 一度も使っていない茶器が割れたショック。けれどもこうしている場合じゃない、私には目的があった。オシャレな写真を撮って投稿することだ。


 こうなったら今から新しい茶器を買いに行こうか。

 カーテンを開けて窓の外を見ると、私は二度目のショックを受ける。

 吹雪ふぶいている。そうだ、今日は午後から天気が崩れるんだ。だから開店を狙って茶葉を買いに行ったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る