第3話

「ありがとうございました。またお越しくださいませ」

「どうもでしたー」


 私は小さい紙袋を持ち、コスメカウンターをあとにした。紙袋の中には今お試ししたのと同じオレンジ色のアイシャドウが入っている。買ってしまった。さすがプロ。

 

 アイシャドウは私にとてもよく似合っていた。発色が良くてラメがキラキラしていてとても綺麗だ。後悔はしていない。

 どうせついでだからと、新色のチークと口紅も塗ってもらった。塗りたての口紅はとても輝いていた。思わず買いそうになったが、数時間後には落ちているはずなので、こらえた。偉い、自分。

 眉毛も描いてもらい、私の顔は少しあか抜けた。


「今日のお客様のファッションにお似合いの眉毛を描きました」

 綺麗なお姉さんはそう言った。眉毛をファッションに合わせるって、神技じゃないか。

 今日の私のファッションはツイード生地のチェック柄のワンピースにジャケットを着て、ケープを羽織はおっている。小さめの帽子をかぶり、私なりに英国の貴族をイメージしたファッションだった。


 

 食器売り場は七階にある。エレベーターはなかなか来ないのでエスカレーターにしよう。今の私にはファッションにメイクが加わり、自信が増加している。張り切って食器売り場を目指す。

 二階は洋服が売ってある。三階にはカフェがある。もう寄り道しない、このまま七階まで行くんだ。私は強く決心した。

 途中、六階の本屋に寄りそうになったがぐっとこらえ、無事に七階に到着した。

 食器がたくさん売っている。大きな丸いお皿や津軽塗つがるぬり、ギフトでももらえないようなお値段の食器が並んでいる。


 きょろきょろして、茶器のコーナーを見つける。

 まずはティーポットを探す。絵柄がついているのはいかにも紅茶って感じだな。英国風だね。けれども値段を見て驚愕きょうがくする。さすがに万は出せないわ……。

 緑や赤のカラフルなティーポットも可愛いけれど、なんか違うんだよなー。


「あ、これ!」

 私はつい、声を発してしまった。周りを確認したが誰もいない、ホッとする。

 私が見つけたのは透明なティーポット。ハーブティーを飲むときに使うようなやつ。以前、雑誌でティーポットの中に花が咲いていた写真を見たことがある。綺麗だなって思っていた。


「緑茶、紅茶、ハーブティーなどに使えます」

 箱にはそう書いていた。万能じゃないか。

 楕円形だえんけいを横に広げたようなデザインで、二人前ほどの量が入りそうだった。

 これに決めた。値段も手頃だし。アイシャドウのほうが高かったくらいだ。

 すぐ隣には透明なティーカップが売っていた。ソーサーも透明で揃えたかったけれども、いまいちなデザインばかりだった。木製のソーサーは滑らないと書いていたので、それにした。


 次はお菓子を載せるお皿を買う。たくさんあって迷う。模様が描かれているお皿が多い。お花とか、綺麗なんだろうけれど、どれもピンと来ない。

 どんなお菓子を買うかも分からない。それならばと、白い丸皿にした。これならどんなお菓子でも合うだろうし。


 私が買った茶器たちは、デパートの名前が印刷された紙袋に収納された。先ほど買ったアイシャドウも一緒に入れてもらった。

 思ったよりもリーズナブルに買えたのでホッとしている。次はお菓子だ。



 デパートの近くにある小さなケーキ屋さんに寄ってみる。存在は知っていたけれども初めて入る。

 ガラスケースの中には色とりどりのケーキが並んでいた。

 初めての店ではいつもガトーフレーズを買うのだけれども、それだと写真映えしない気がした。だからカラフルなケーキを、と思ったけれどもピンと来るものがなかった。


 うーん、と悩んで店内を見渡すと、和菓子コーナーが目についた。りだ。お正月やお葬式で見た記憶がある。もちもちした食感の和菓子だ。

 こちらはケーキよりも上品に扱われている気がした。一個ずつプラスチックのケースに入っている。みかんや雪だるまの顔がある。

 桃みたいな形でピンクのグラデーション、まん中に黄色、緑の葉っぱが乗っているのは花だろうか。

 この小さいプラスチックケースのサイズで季節を表現しているのだと思った。作った人の気持ちが流れてきた気がする。見た目が綺麗だし、四季を想う気持ちに胸が熱くなり練り切りを買った。

 綺麗なお菓子に出会えて私は満足だった。

 明日は茶葉を買って、写真を撮ってお菓子を食べよう。練り切りがかたむかないよう、気をつけて車の座席に置いた。

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