つかれたらつきかげあびよ 5

naka-motoo

つかれたらデートしよう


「ね、ねえ、たいちゃん」

「なんだよ、なみ」

「たいちゃんはほんとは二十才なんだよね」

「さあな。年令はひみつ」

「で、でも二十才ぐらいなんだよね」

「まあなみよりは年上だな」

「じゃ、じゃあさ。女の子とデートしたことって、ある?」

「ほう・・・・・」


 たいちゃんがニヤリと笑う。


「なんだ、オレとデートしたいのか?」

「た、たいちゃんと、ってわけじゃなくって!・・・・・その、デートとかしたら自信がついて学校にまた行けるかなとか思って」

「なるほど」


 たいちゃんの顔がマジメになる。


「いい心がけだ。とくべつにデートしてやろう」

「え。いいの?」

「なんでだ?」

「だ、だって・・・・・わたしみたいな暗いキャラの子と一緒に歩いたら嫌でしょ?」

「別になみは暗い子じゃないと思うぞ。おとさんと一緒の時は特によく笑ってるしな」

「でも、わたしみたいなガキんちょと大人のたいちゃんが一緒にカフェとか入ったら恥ずかしくない?」

「誰が大人の姿でデートするって言った」

「え」

「この姿のままに決まってるだろう」


 これはデートではない。

 これじゃあただの引率だ。


「あらあ、かわいらしいですね。弟さんですか?」

「いいえ。いとこです」

「こんにちは、おねえさん!」


 頑張ってカフェに入ってみればたいちゃんは高校生ぐらいのアルバイトさんにばっかりあいそしてるし。


 わたしがパフェ食べてるのにたいちゃんはザッハトルテなんて食べて周囲の女のお客さんたちから「大人ぽいのね」とか言われてデレデレしてるし。


「たいちゃん。これってデートじゃないよね」

「なみ。デートの定義とは?」

「・・・・『男の子と女の子が一緒に映画観たりカフェでお茶を飲んだりしてしんぼくを深める』こと」

「しんぼく深まってるだろ?いいじゃないか」


 わたしからすると『きれつ』が深まってるって感じる。


 パフェのグラスのいちばん底にあるいちばんこくて甘いシロップをスプーンですくおうとするけどすくえないし。


「トイレ行いってくる」


 たいちゃんはスマホでレトロゲームばっかりしてるし。


 あーあ。


「おい。ネクラなみ」


 えっ


「あ」

「お前学校にも来ないでこんなところで何してんだよ」


 クラスの主流派男子グループだ!

 奥の席にいたの、全然気づかなかった!


「おーいどうした?」

「来てみろよ。ネクラなみがいんだよ」


 やだ

 来ないで!


「あ、ほんとだー。おいおい学校は来れないのにこういう場所なら来れるんだなー」

「都合いいよなー」

「うらやましー。オレも『気持ちがつらいので学校行けねー』」って親に言ってみようかな」


 やめてやめてやめて

 ほっといてほっといてほっといて


「おいネクラなみ。レスポンスレスポンス!」

「そうそう。この世は気のきいた『返し』がすべてよー」


 笑わないで笑わないで笑わないで!

 あなたたちの笑いは冷たい笑い!

 あなたたちの笑いは計算された笑い!

 誰かを傷つけるためか、誰かに気に入られるための!


「おいネクラ!なんとか言いえよ!お前の人生どうすんだよ!」

「お前こそこんなことしてどうすんだよ」


 え


 たいちゃん!

 いつの間に大人の姿に・・・・


「な、誰・・・・ですか?」

「オレはこいつの彼氏だよ。お前こそ何さまだよ。オレの彼女に何してんだよ」

「だ、だって、こいつ、学校サボってて引きこもりで・・・」

「そ、そうなんですよ。なんの役にも立ってないダメ女なんですよ」

「ほう・・・・・じゃあ聞くけど、お前は家でごはん食べたあと食器とか洗ってんのか?」

「食器?・・・・い、いえ・・・・」

「家のそうじとか手伝ってるヤツいるか?」


 たいちゃん・・・・・


「どうした。全員デクのぼうか?なみはなあ、炊事洗濯からおばあちゃんの畑しごと手伝ってなあ、おまけにおばあちゃんが疲れた時にはなあ、足の裏を指で揉んであげてるんだぞ」

「あ、足の裏?・・・・・きったね」

「なんだと!」


 あっ。

 たいちゃん、怒ってる。


「じゃあお前の足の裏はきれいなのか!どうなんだよ!」

「そ、それは」

「手伝いもしない、自分のばあちゃんの足さえマッサージできない。おまけにやさしいなみをいじめやがって!お前らの心の方ほうがよほどネクラだ!」


 帰り道、たいちゃんはずっと大人の姿のままでいてくれた。


 その姿のままでわたしと手をつないで歩いてくれた。


「・・・・ありがとう」

「ああ。気にするなよ」


 わたし

 たいちゃんのこと、ほんとに好きかも。


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