第7話

「怜生、顔が強張ってるぞ」

「えっ……」

 兄に言われて、ほっぺを引っ張った。

 知幸は、怜生の顔を見て軽く笑った。

「まあ、表情が変わらない上に喋らないから、冷たく感じるかもしれないけど、面倒見はいい奴だ」



 そうなのか?いや、そんな風には見えない。


 チラッと隆之介の方を見ると、無表情でコーヒーを飲んでいる。

 プリンの容器は空っぽ。食べ終わったようだ。手ががクッキーに伸びていく。

 ほけっと見ていると「雪に見惚れてるのか」なんて、ニヤッと笑って言う。

「違うって!」


 否定する声が大きくなる。

 見惚れるほど綺麗ではあるけれど、そんなんじゃない。

 残っているプリンを一気に口に掻きこんだ。


 その隆之介はと言うと、表情は変わっていない。そのことにホッとしつつ甘さを堪能した。空っぽになった容器をテーブルに置くと、コトンと音がして、新しいプリンが置かれた。


 容器から離れていく手の先は、兄ではなく隆之介だった。


「え、いいんですか?」

「ああ、食べるだろ?」

 言い方も素っ気無い。表情も変わらない。

 それでも、何だかとても嬉しかった。


「いただきます!」

 何も言わない隆之介の代わりに、知幸が口を開いた。

「以前電話した後、隆之介に怜生のことを話をしたんだ。そしたらさ、今日なんて俺よりも早く、家を出て行ったしな。んで、電話が掛かってきて取ったら、『ハンバーガーショップで見かけたと思ったら、追いかけられてるぞ。早く来い!』だってさ。それでな……」

 

 その先を言う前に、隆之介が自分の腕で知幸の口を塞いでいた。

 締め付ける腕の力が強いのか、モゴモゴという声は、苦しそうだ。


 呆気に取られて見ていると、限界だとばかりに知幸がユキの腕を叩いている。

 腕が緩むと、ヒュっと大きく息を吸い込む「ゲホゲホ」と咳き込んでいるた。

「て、手加減しろ!」

「ああ、悪い。つい」

「つい、じゃない!」

 はー、と大きく息を吐き出し、こちらを向いた。親指で隆之介を差し、


「まあ、番犬にはもってこいだと、お兄ちゃんは思う」と、言った。

 真顔が怖い。

「おい、番犬ってなんだ」

と、その兄を隆之介が睨む。

 それに応戦する知幸。二人で言い合っているのを眺めながらぼんやりと考えを巡らせた。



 見た目とは違うのだろうか。

 強そうには見えない。

 腕も肩幅も、鍛えている兄の方が強く見える。

 でも、兄の言い分ではそうではなさそうだった。


 それに、ハンバーガーショップ。


 こんな人がいたら目立つだろう。


 居ただろうか?


 天井を見上げながら、店内の様子を思い出す。

 思い出すのは黒いジャケットにあの強面の男性だ。

 他といえば、助けてくれたスラリと背の高い……。


「あっ」と声を上げた。

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