第5話

 リビングに入りまず目に入ったのが、大きいテレビ。それに、淡いモスグリーンのL字型になったソファー。

「広っ!」

 思わず口をついて出た。

 独り暮らしにしては、広い。 


 キョロキョロ見回していると、キッチンから出てきた知幸が苦笑していた。

「知兄、贅沢過ぎん?」

 独り暮らしにしては物が多い気がした。

「ああ、ルームシェアしてるからな」

「え? 知兄が?」

「ほら言っただろ、会ってもらいたいって」

「ユキって人?」


「そうだ。俺、来年にはここを出るつもりだけど、ユキはこのままいるっていうから、俺の後釜にお前を紹介しといた」

「えっ……」

 新しい情報が処理しきれず、言葉につまった。

「来年、海外に行くつもりだ。怜生がこっちにくるつもりなら、先延ばしにしてもいいんだけど、まあ、雪がついててくれるなら俺がいなくてもいいだろ」

 腕を組み、うんうんと頷いている。

 一人で言って勝手に納得しないでほしい。

「ちょ、ちょっと待った!」

 こちらを顔を向け、「何だ?」と首を傾げた。

「知兄、いつの間にルームシェアしてたの?それに、ユキって女の人じゃないの?」

「……」

 一瞬、間が空いたあと、口の端だけで笑った気がした。瞬きをする間に、普段の友幸の顔に戻っている。


 笑ったのは気のせい?

 知幸が「あのな……」と言った時、玄関の扉の開く音が聞こえてきた。


 足音がこっちに向かってくる。

 短い廊下だった。すぐに『ユキ』という人が入ってくるはずだ。

 怜生は、リビングの戸口を期待と緊張を混ぜ込んだ気持ちで見つめた。


 どんな人なのだろう。


 想像していたのは綺麗な女の人だ。それも、知幸とルームシェアできる人物となれば、サッパリとした感じの女の人。歳上で髪の長くてほっそりした美人。



 すりガラスの向こうに、白っぽい服が見える。ガチャリと扉が開き、その人物が入ってきた。

「うわっ……」

 出立の美しさに、思わず声を上げていた。


「ただいま」と言う人物は、知幸と並ぶ長身。兄との違いは体格だろうか。兄が、がっしりとした体格ならば、相手は、スマート。顔は切長の一重に細い眉。輪郭はシャープで、柔らかい。言うなれば、美人だ。

 白っぽいトレーナーに黒の細身のパンツルック。胸元には黒いサングラスを挿し、腕には黒いジャケットをかけている。

 どこからどう見ても男性。なのに、知幸が『ユキ』と呼んでいるのも、何となく納得できるような、中性的な感じも受ける。

 綺麗だけれど、じっと見られると背筋が伸びる。なんだろう、この圧迫感。

 ヒヤリとするような目で見られ、歓迎されていないように感じるのは、初対面だから、か……?


 ユキと呼ばれる人物は、ニコリともしない顔で知幸の方を向いた。

「説明終わった?」

 声は透き通ったテノール。

「雪、お帰り。細かいことは、まだこれから」

 知幸は、怜生に顔を向け、言った。

「立ち話もなんだ。荷物を置いたら話そう」


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