第39話 五年後

 月日が経つのは早いもので、ロランとイリアが付き合い始めてもう五年、つまり厄災襲来が間近に迫っていた。


 その前に、二十歳になり真の力が覚醒した六人について説明しよう。


 一人目はアレンだ。彼のギフト【掃除屋】と【器用貧乏】はギフト【アサシンリーダー】に変化していた。以前よりはるかに気配が感知されなくなり、影の中を自由に移動できる力を手にしていた。


 二人目はセレナだ。彼女のギフト【治癒】と【仲間意識】はギフト【聖女】に変化していた。誰だろうと回復できるようになり、さらに聖属性の攻撃魔法も放てるようになった。その他、蘇生や浄化などあらゆる治癒のエキスパートになっていた。


 三人目はジェードだ。彼女のギフト【忍】はギフト【忍者マスター】に変化していた。ありとあらゆる忍術や暗器を使いこなし、誰よりも身軽になっていた。


 四人目はグレイ・ バイアランだ。彼は枢に連れ回され、幾度となく死線を乗り越えてきた。 そんなグレイの所持していたギフトは【武神】と【覇気】だ。この二つはギフト【覇王】に統合され、今まで以上に使い勝手の良いギフトになっていた。覇王は自分よりレベルが低 く、敵対してくる相手を傀儡に変える事もできるようになった。その効果範囲は視認できる全てに及ぶ。


 五人目はイリア・グロウシェイドだ。彼女のギフトは【姫騎士】だった。それが二十歳を迎えギフト【クイーンナイト】になった。クイーンナイトは自分でももちろん戦えるが、本来、役割は仲間の能力を向上させる点にある。二時間という時間の縛りはあるが、全ての仲間に自分のステータス分だけ上乗せする事ができるのである。


 六人目は八神 枢だ。彼の正体は銀河神だ。この銀河神ではないが違う銀河を担当している神である。そして名前からわかるように、これは元人間であり、元地球人だ。それが紆余曲折を経て今の地位に至った。その力は仲間達を遥かに超える力があるが、おそらく全力は出さないだろう。彼の役割はサポートだ。


 そして最後に七人目ロラン。彼の所持していたギフトは【借金王】に様々な方にギフトだ。それらは全て消えた。そして新たに付与されたギフトは【神の使徒】だ。


 神の使徒とは神の命を受け活動する者のため、世界にある全てのギフトを神の意志に逆らわない限り自由に使える。まさに破格の性能だ。だが少しでも悪用した瞬間ギフトは一つ残らず失ってしまう。


 この五年で世界は厄災に備えていた。セレナがギフト【聖女】に覚醒したため、全世界にある教会が味方になり、厄災の存在を世界の危機と認定し、世界を一つにした。


 そして教会のない独自の体制で動いていた東の果てにある島国からは【忍者マスター】であるジェードの下に侍と忍者が集結している。


 だがこの期に及んでもまだ逃げ腰な連中がいた。


 グロウシェイド国王は書筒を見ながら呆れ果てていた。


「冒険者ギルドは黙りか。腑抜けどもめ……!」

「冒険者と聞こえは良いかもしれませんが、あの方たちは金にならない仕事を嫌いますからねぇ」

「だ~う~……」

「むほほほほっ、元気が良いの~う。ほ~れ」

「きゃはははっ、じ~じ~」


 国王が高く持ち上げているのはロランとイリアの子だ。昨年二人の間にできた元気な男の子だ。


「ほっほ。すっかりお爺さんですな」

「うむ。孫は良いのう……。これで厄災さえなければ……」

「あう?」


 国王は慈愛に満ちた表情で孫を撫でていた。


「ダニエルよ」

「なんでしょう」

「私も年だ。ロランが無事厄災を乗り越えた暁には王の座を譲ろうと思うのだが」

「そうですね。この五年でロラン君もイリア様も素晴らしく成長を遂げました。仲も睦まじいですし……任せても大丈夫でしょう」

「うむ」


 国王は孫を抱え空を見上げた。


「頑張るのだぞロラン……」


 そうして五年の修行を終えた六人は枢に呼ばれ屋敷の外に集合した。


「お前ら、今から一ヶ月後厄災がこの星に来るぞ」

「一ヶ月ですか?」

「ああ。俺のサーチ範囲にかかった。奴らの率いてきた数はおよそ一千万だ。どうやら宇宙に進出できるだけの科学力をもたないこの星を舐めてくれたようだ」

「一千万ですか。それならエイズーム帝国と戦った時よりは楽っすね」


 そう敵を甘くみたグレイに拳を落とした。


「いったぁっ!? な、なにするんすか師匠!」

「何度も言ってんだろうが。数が少なかろうと敵を甘く見るな。普通の戦のように一ヶ所に集まってやるわけじゃないかもしれないだろ。奴らは空を飛んでくるんだ。科学の力を甘く見たら死ぬぞ」

「う、うっす! サーセン!!」


 グレイはこの五年間ですっかり枢の舎弟のようになっていた。ロランが枢に尋ねた。


「枢さん、厄災がどの辺りに襲来するかわかりますか?」

「だいたいはな。距離、速度、この星の自転、公転の速度から計算した結果、最初に奴らを肉眼で捉える事のできる場所は……」


 枢はロランの妹であるリリーが作成した世界地図を開き、襲来予想地点に赤い丸印をつけた。


「ここだ」

「ここって……枢さんがいたラス・ベガース?」

「ああ。で、近くに砂漠地帯があるだろ? そこに大船団が現れるはずだ」


 アレンは腕組みをしたまま地図を見る。


「砂漠地帯なら丁度良いな。周りに何もないからいくら暴れても被害は少なくてすむ」

「俺が船の乗組員を殺って墜落させても問題なさそうだな」

「一応俺の力で多少星に被害が出たとしても修復してやれるが……ロラン、船は一つ残さず全部破壊してくれ」

「全部ですか?」

「そうだ。宇宙船はこの星にはまだ早い。科学の力は危険な力だ。それに……残しておけば船から本星に救難信号が送られてしまう。そうなれば次は全戦力がこの星に襲来しちまう。ま、一応手は打っておいたが……間違いなく全部破壊するように」

「わ、わかりました」


 役割はこうだ。まずグレイが巨大船団に向け覇気を放ち数を減らす。もしくは傀儡化し、同士討ちをさせる。そして万が一覇気が効かなく、地上に着陸された際はアレン、ジェード、イリアが雑魚を、ロランが母船を撃退する。セレナは枢の隣で誰かが死んだ場合にすぐ蘇生できるように控える。そして枢は星に被害が出ないようにするため、自身を中心にし星全体に守護結界を張る。


「敵は未知の力を持っているかもしれない。各自油断する事のないように。特にセレナ。もし厄災が毒や細菌兵器を使用した場合は即時浄化するように」

「は、はいっ!」

「よし、じゃあラス・ベガースに向かおう。厄災を待ち構えるぞ」

「「「「「はいっ!!」」」」」


 こうして万全の体制を整えた七人は枢の転移でギャンブル都市ラス・ベガースへと転移していくのだった。


      ── 第一部 完 ──

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