第10話 マライアの正体

 グロウシェイド王国ジェスパー領ラング村生まれの村娘セレナ。彼女は幼い頃から鈍臭く、なにをするのにも人より多くの時間を費やしていた。そのため、友達と呼べる者は一人だけと、なかなかにつらい幼少期を過ごしていた。


 そしてセレナは成人の儀式でギフト【治癒】という引く手数多のギフトを手にした。だが隠蔽されていたギフト【仲間意識】により、その能力を著しく制限されていた。神官もその事実に気付くことなく、セレナは神殿での職を失い、自分にできる事を探すためにここ、養成校の門を叩いた。


 そんなセレナだが、遠い未来七英雄とよばれるロランやアレンの仲間とし、将来は聖女セレンと称えられるのだが、それはまだ先の話だ。今のセレナはようやく自分の力を理解したばかり。その道は果てしなく遠い。


 それが何の数奇か、ロランの目に留まり、現在マライアの屋敷で縮こまっていた。


「女の子ねぇ。あなた名前は?」

「は、ははははいっ! 私はセレナと申しますっ!」

「セレナねぇ……」


 マライアはジッとセレナを見る。


「あなたのギフトは?」

「は、はいっ! 私のギフトは【治癒】です!」

「治癒? 凄いレアギフトじゃない」

「はい……。でも、ギフト【仲間意識】のせいで制限がかかっていまして……」

「あら、そうなの? それは不憫ねぇ。制限がなかったらそれこそ神官にでもなれたでしょうに」

「それは……」


 話をしている内に落ち着いたのか、ようやくセレナは顔を上げ真っ直ぐマライアを見た。


「確かにそうかもしれませんが、今は制限があって良かったと思ってます」

「なぜかしら?」

「はい。この制限のおかげでロランさんやアレンさんと出会えましたから。あの……私鈍臭いけど仕事は真面目にやりますので! どうかここで働かせて下さいっ!」


 そう頭を下げるセレナにマライアはこう告げた。


「構わないわよ。けど、仕えるのは私じゃなくて良いわ」

「え?」

「あなたはロランに仕えなさい。その治癒の力でロランを助けてあげてね」

「ロランさんをですか?」

「ええ。なぜかロランは自分からトラブルに首を突っ込むのよ」

「それは……そうですね」


 セレナは自分をかばってもらった場面を思い浮かべていた。


「だから味方も多くなるけど逆に敵も多くなるのよね。世渡りが下手なのよ。けど、ロランは強いし、並大抵の奴には負けないわ。それでも怪我はするかもしれない。その時あなたの力で癒してあげてね?」

「は、はいっ! たとえ死んでもすぐに生き返らせま――」

「あ、このバカ!」

「あ」

「生き返らせる? 今生き返らせるって言った?」

「はわわわ……」


 調子に乗ったセレナは禁忌とされる力があると自ら告白してしまった。それを聞いたマライアはロランとアレンの二人に問い質した。


「二人は知ってたの?」

「「……はい」」

「そう。なら良いわ」

「え?」


 セレナはマライアの言葉に首を傾げた。


「私は裏の人間よ。別に死者を蘇らせられると聞いたところで、誰にも言いふらして回るつもりはないわ」

「裏の人間……ですか」

「そうよ。でもアウトローってわけでもないの。そうねぇ、ちょうど良いから二人にも私の仕事を説明してあげるわ。ロラン、お茶の準備を頼めるかしら?」

「あ、はいっ!」


 ロランが四人分の茶を用意し戻るとマライアの話が始まった。


「私の仕事はね、裏社会の統率なの」

「統率ですか?」

「そう。国には裏稼業なんて溢れてるわ。そんな裏の人間を管理するのが私の仕事なの。そしてその裏の人間たちを使い、国を守ることも私の仕事ね」


 それを聞いたアレンはマライアがどんな地位にあるか気付いてしまった。


「ま、まさか……国家公安の……!」

「国家公安??」

「あら、さすが貴族ね。学があるわね。そう、私は国家公安部所属の国が認めた裏の人間なの」

「し、知らぬとはいえ失礼しました!!」


 アレンはいきなり頭を下げ謝罪を始めた。


「ど、どうしたのいきなり?」

「ロラン、国家公安の人間はな……公爵家と同様の権力を持つんだ」

「え?」

「国家公安の人間を動かせるのは国王のみだ。それ以外の人間には決して従わない。そして公安が動くのは腐った貴族を断罪する時だ」

「貴族を断罪……」


 そこからマライアが話を続ける。


「そう。貴族だってみんなが品行方正で民草のために身を粉にして働くとは言えないわ。中には領民に重い税を課したり、裏金を作ったり、邪魔な人間を排除したりとね……。そういう奴らはだいたい裏の人間が絡むのよ。それをいち早く察知し、国と民を守る。それが私の仕事ね」


 そこでロランは自分がここに連れてこられた場面を思い出し尋ねた。


「でも……僕の場合は?」

「奴隷商人の話かしら? あれはそう語っただけ。あいつらは裏の金貸しでロランの両親と同じように金を返せなくなった人を奴隷として売りにくるのよ。そうなったら救いはないでしょ? だから私が買ってとある場所で働かせてるの」

「とある場所ですか」

「そ。危険な場所ではないから安心していいわよ」

「ならなぜ僕はここに? 僕もその場所に送られるんじゃ……」


 そういうロランにマライアは微笑みを浮かべこう告げた。


「ロランは別よ。だって可愛いんだもの。それとも……ここを出たい?」

「い、いえっ! ずっとここにいたいです!」

「ふふふっ、可愛いわねぇ~」


 そしてマライアは真面目な表情に戻る。


「これが私の全てよ。だから今さら死者蘇生と聞かされても特に思う所はないわ。むしろロランにとって得しかないもの。私事に巻き込まれるかもしれないからね。だからセレナ」

「は、はいっ!」

「あなたは常にロランの傍にいなさい。もし離れたら悪いけど王に伝えなければならなくなるわ。そして……アレンもね。ここまで聞いたからにはもう逃げられないわよ?」


 その言葉に二人はこう答えた。


「わ、私は働かせてもらえるなら何でも言われたとおりにいます!」

「俺は元より離れる気はありません。ロランは友達ですからね」

「ありがとう。じょあ……セレナの歓迎会でもしようかしらね。ロラン、夕食の準備お願いね? ちょっと豪華な感じで」

「わかりました! 腕によりをかけて作ります!」


 そして夕食時、アレンはロランの真の料理に驚き舌を巻いた。


「これは……! 貴族のパーティーでも見た事がなく、美味い料理を作れたのかロランは……」

「うちのロランは凄いでしょ? こんなの朝飯前なんだからね」

「ほわぁぁぁ……、こんな料理初めてです! 先生より上手かも……」

「みんな褒めすぎじゃない? これだってギフトの力だし……」

「「そんな事はないっ!」」

「えぇぇ……」


 二人はロランの料理の虜になり、より絆を深めていくのだった。

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