愚かな賢者は衰退する⑦

 ライガは屈辱に震えた。


 このキャンプはおかしいのだよ!


 賢者である私がやる事ではないのだよ!


 実際には、過去の賢者や勇者は厳しい訓練を乗り越え、皆に称えられた。


 だがライガは歴史から学ばない。


 ライガは教官に叫ぶ。


「帰るのだよ!」


「このキャンプは片道切符!途中で帰ることは出来んぞ!」


「賢者である私がこんな目に合うのはおかしいのだよ!」


「帰らせてもらうのだよ!」


「また脱走するのか!逃げずに戦え!」


 ライガは殴られる。


「返事はどうした!」


「・・・・・はい」


「声が小さい!」


「はい」


「もっとだ」


「はい!!」


 ライガは雷撃の効きにくいプラントトレントと連戦を強いられる。


「ライガ、帰ったら炎魔法の訓練だな」


「はい!!」





 ◇





 ライガはボロボロになっていた。


「ライガ、どうした?回復魔法で回復しないのか?」


「回復しないのだよ!」


「いま治癒士ジョブの者がキャンプに参加している。頭を下げて回復魔法を教えてもらったらどうだ?」


「回復は出来るのだよ!だが魔力が足りないのだよ!」


「自分の無能を認めたらどうだ?うまく回復魔法を使えないから教えてくださいお願いしますと言うだけだぞ?」


「回復は出来るのだよ!」


「自身の無能を認めろ!そこから強くなれる!」


 ライガは頑なに自身の無能を認めなかった。


「そうか、回復魔法を使えるというなら、ライガに回復魔法を教える必要もなく、回復してもらう必要もないわけか」


 こうしてライガは毎日魔物に突撃することを強要された。


 従わなければ投げ飛ばされる。


「あああああああ!」


 ライガは豚に尻を噛まれるが、逃げながら雷撃を周りに発生させる。


 何度言ってもライガは周りの新兵を電撃魔法で巻き込むためソロで魔物に向かって投げ飛ばされるようになった。


 そして訓練が終わっても回復は自身ですべて済ませる。


 当然回復が間に合わないまま次の魔物狩りが始まる。


「ライガ、自分の無能を認め、治癒士に頭を下げる気になったか?」


「わ、私は出来るのだよ。ただ魔力が無いだけなのだよ」


「魔力不足なら、もっと魔物を倒して力を得る必要があるな。返事はどうした!!!」


「はい!!」






 ライガはその後もボロボロになりながら力をつけていったが、魔法の技量は上がらなかった。


 魔法は基本さえ覚えていれば自身の努力で技量を伸ばしていくことも出来るが、ライガは基本を学んでいない、


 そのためライガは賢者の【超成長】の力を持っていても、思ったほど強くはならなかったのだ。


 ゴーレムで例えれば、力も防御力もあるが、うまく動けない木偶、それがライガの評価になる。





 キャンプが終わるとライガは前よりおとなしくなったが、それは性格が変わったわけではなく、教官に抑え込まれた結果にすぎず、性根が変わることは無かった。


 だが、周りからすれば、厄介なライガがおとなしくなったおかげで、生活はしやすくなる。

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