エリスの告白

 ワールドヒーラーは討伐隊から離れてキャンプ生活を送るはずだったがエリスもついて来た。


 今はマジックハウスでテーブルを囲んでティータイム中だ。


「エリス、ついてきて良かったのか?」


「迷惑ですの?」


「迷惑ではないぞ」


 良く考えればエリスがついてきて良かったのかもしれない。


 魔王を庇ったエリスはまた刺される可能性がある。


「わたくしの秘密、【管理者】の話がまだですわ」


「忘れてたよ!」


「それでは話を始めますわね。わたくしは【管理者】という組織に属しておりますの」


「管理者って何なの?」


「ノアワールドが出来てから500年、人類を管理しようとしてきましたわ」


 話が大きくなったぞ。


 しかも管理してきたじゃなく、管理しようとしてきたか。


 まるでうまくいかなかったような言い方だな。


「まるで神ですね」


 エリスは首を横に振る。


「そのように万能な物ではありませんわ。女神の手伝いと言った方がしっくりきますわね」


「手伝いって何をしてきたんだ」


「長くなるので結論から言いますわ。【人類救済計画】の為に動いておりますの」


 人類救済計画?まだ良く分からないな。


「【人類救済計画】の目的は人類の滅亡を防ぐことですの。やっていることは、人類という種を強化するよう動いていますわ」


「具体的に何をしているんだ?」


「色々ありますが、1つは邪神の因子の抵抗力を得る事ですわ。それと、人類全体に成長因子を持たせることですわね」


「邪神の因子も成長因子も良く分からないぞ」


「邪神の因子は空気中に漂う邪神の元のようなものですわ。昔の人間は邪神の因子の抵抗力を持たず、呪われ、体を腐らせて死んでいましたのよ」


「今は抵抗力を持ってるって事か?」


「その通りですわ」


「成長因子ってのは何なんだ?」


「成長因子は、戦闘力的に高い成長率と、成長限界を持った人間にする為のものですわね。これも全人類が持っていますわ。とりあえず、一通りお話ししたいのですわ」


「分かった。話してくれ」


「他には一夫多妻制もそうですわね。500年以上前は一人の男性と女性が結婚するのが多数派でしたのよ。男性は冒険者か兵士になり、魔物と闘い、生き残った強い血のみを次の世代に引き継ぐことで、人類という種を強くしてきましたの」


 言われてもピンとこないぞ。


 物心ついた時から一夫多妻制だった。


 一切違和感が無い。


「更に、強力な武具の供給を停止し、血の淘汰を進めましたの。強すぎる武具を持った特権階級のみの血が栄えることを危惧した為ですわ」


 俺は貧乏だったから、どちらにしろ強い武具は使えなかった。


 これもデメリットが無いよな。


「わたくしの事を軽蔑しましたでしょう?わたくし達【管理者】は人類を選別してきましたのよ」


 エリスはその事を気にしていたのか?


 それだけ?


 大体500年前からの事だろ?エリスはまだ18才だぞ。


 正直昔の事すぎてピンとこないし、俺にとってはメリットが多いぞ。


「全然。500年前からの事を言われてもピンとこないぞ。大体、それをしなきゃ、今頃人類は滅びてたんじゃないか?」


 エリスが目を見開く。


「軽蔑しませんの?」


「しないな。逆だったらと思うとぞっとするぞ。邪神の因子の抵抗力が無くて、成長因子ってのも無かったら、俺は生きていられなかった。貧乏人でも頑張って生き延びれば良い事がある方が俺にとっては助かる」


「そうです。一夫多妻制じゃなければ、セイをめぐって争いになっていました」


「エリスは気にしすぎだよ」


「エリス、悪くない」


 エリスの目から涙が溢れる。


「え?あ?ふぇ?」


 アイラがエリスを抱きしめる。


「大丈夫だよ」






 エリスが落ち着くと、エリスはまた話を続けた。


「強い人類、1番の成功例がセイ、あなたですのよ」


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