魔力操作修行

 ワールドヒーラーはギルドに帰還した。


 魔物の納品を済ませると、昼になっていた。

 

「報酬もたくさん入ったし、ギルドで飯を食べよう」


「そうですね」


「私ステーキにする!」


 俺達はテーブルでゆっくりする。


「2人ともたくさん魔物を狩って強くなったな」


 アイラとサーラの反応はいま一つだ。


「強くなったけど、武器強化をうまくできないよ」


 武器強化、武器に魔力を流す事で攻撃力を上昇させるスキルだ。


 身体強化より習得難易度が高く、難しいスキルと言われている。


「私もセイのようにヒールを使いたいです」


 皆課題を抱えているな。


 どちらも魔力の操作に関する課題だが、解決する方法はある。


 ただしかなり負担がかかる為、全力で勧めることは出来ないな。


「体に負担がかかるが、俺の魔力をアイラとサーラに流して、武器強化やヒールの魔力操作を体感してもらえれば、覚えられるかもしれない」


「やるよ!」


「はあ!はあ!セイの魔力が私に入ってくるんですね!絶対にヤリます!」


 サーラの反応がおかしい。


 たまにサーラのテンションが上がるタイミングが分からなくなるぞ。


 アイラもやられた時の苦痛をが分かって無いな。


 説明が必要だ。


「待て待て!まず、他人の魔力を流されるとかなり体に負担がかかる。そしてその魔力の流れをなぞって魔力操作を行うという事は、いつもと違う魔力操作をする事になる。体への負担は当然大きくなる。数日筋肉痛を遥かに超える痛みが続くぞ!」


「やるよ!セイについて行けるくらい強くなりたい!」


「たくさん痛くしてください!」


 もっと脅しておくか。


「分かったけど、きつくなったらいつでも言ってくれ。夕方に始めるけど、それまで間食は無しだ!吐くかもしれないからな」


「今の内に食べておくよ!」


「私の番はいつですか!?」


 あれぇ?効かないのか?脅しが効かない。


「言っておくが苦しい修行だ。この修行の名前が無い。なぜだか分かるか?苦痛すぎてあまりにもマイナーな修行だからだ!熟練の冒険者でも逃げ出す過酷な修行なんだ!」


「ステーキ1枚追加で食べとこ」


「セイに支配されるんですね!はあ!はあ!魔力を流されて動けなくなった先に見える世界が楽しみです!」


 脅しが効かないだと!




 ◇





【夕方のマジックハウス】


 2階のベッドにアイラがうつぶせで寝そべった。

 Tシャツとハーフパンツというラフな格好。

 魔力を通すため魔力防御効果のある装備は外してもらった。


 サーラは真剣な表情で見学する。


「アイラは武器強化の前に身体強化の魔力操作を体感してもらう。身体強化の能力を上げた方が武器強化のスキルを覚えやすいからだ」


「うん、早く始めよう」


 何度も痛いとか体に負担がかかると言ってもアイラは笑顔のままだ。


 絶対分かってないだろ?


 俺はアイラにまたがり、背中に手を当てる。


「いいか、何度も言うけどきつくなったらすぐに言ってくれ。出来るだけ痛くならないように魔力を流すけど、それでも痛いと思うぞ」


 俺はアイラに魔力を流す。


 アイラの魔力と俺の魔力を混ぜ込み、更にアイラの神経を活性化させる。


 神経を活性化させることで少ない魔力を流すだけで魔力の流れを感じることが出来る。


「はあ!は!ん!」


 アイラの足の指に力が入る。


「かなり体力も使う。続けても大丈夫か?」


「だい、じょう!ぶ!んぐう!」


 アイラはシーツを噛んで耐える。


 更に手で思いっきりシーツを掴む。


 俺はアイラの体で身体強化を再現する。


 アイラの体がのけぞる。


「んあああああああ!」


「アイラ、俺の魔力をなぞるように身体強化を使ってみてくれ」

 

 アイラは身体強化を使う。


「ふー!ふー!ふー!あ、分かってきた!き、きたよ!」


 俺は魔力を止める。


「ふぇ?なんで止めちゃうの?」


 アイラは縋るような目で俺を見る。


「何度も言うが、他人に魔力を自分に流して、普段と違う魔力の流れで身体強化をしたんだ。体の負担は相当なものになる」


「はあ!はあ!まだいけるよ!」


「ま、待て待て!凄い汗だぞ!」


 アイラは大量の汗をかき、下着が透け、更に体が赤くなり、顔は真っ赤になっていた。


「え?あ!?あああああ!」


 アイラが突然恥ずかしがる。


 俺はアイラにシーツをかける。


 アイラは元から暑がりだが、この汗の量は異常だ。


「お、お風呂に行ってくるね」


「ああ、ゆっくり休んでくれ」


 アイラは風呂に行くが、まだ吐息が聞こえる。


 サーラだ。


 サーラは小声で言う。


「つ、ついに始まりました!」


 サーラは両手を組んで祈りを捧げる。


「サーラ、アイラの苦しそうな顔を見ただろ?止めておこうか?」


「いえ、ぜひやりましょう!ヤルべきです!」


 サーラの吐息が激しくなり、俺の手を掴む。


「ぜひ、早くやりましょう!」


 サーラがさらに近づく。


「わ、分かった」


 サーラはベッドにうつぶせに寝て間髪入れず「早く私に跨がってください!」と言うが声が大きい。


 俺はサーラに跨る。


「ヒールの高速詠唱の魔力操作で良いんだよな?」


「はあ!はあ!大丈夫です」


 サーラに魔力を流し、手に魔力を集める。


 ヒールを使う時の魔力操作を再現する。


「あん!ひぎ!はあ、はあ、はあ!」


「俺の魔力の流れをなぞるように手に魔力を集めてくれ」


「はあ!はあ!分かりました!もっと強く魔力を流しても大丈夫です」


「これ以上は危険だ。その魔力でヒールを使ってくれ」


「はい、うんぐ!ヒール!もっと強く魔力を流してください!」


「だから危険なんだ!体にある魔力を手に素早く集めるんだ。それが出来ればもっと早くヒールを使える」


「はい!ヒール!もっと強くして大丈夫です!」


「だから危険なんだ!」


「もう一回私にセイの魔力を注ぎ込んでください!」


 サーラの体にヒールの魔力の流れを再現する。


「ん!ヒール!もう一回お願いします!」


 俺は魔力を止める。


「終わりだ」


「そんな!もっと行けます!」


「もう限界だ。サーラ、ベッドから立ち上がってみてくれ」


 サーラはベッドから立ち上がろうとするが、足ががくがくと震え、バランスを崩す。


 俺はサーラを受け止め、ベッドに寝かせる。


「サーラ!休め!」


 俺は強い口調でサーラに言った。


「はあ!はあ!はい」


 何故かさっきまでより顔を紅潮させ、嬉しそうにした。


 この後数日ごとにサーラとアイラは魔力修行をお願いしてきた。


 特にサーラは苦行を求めるかのように熱心に取り組んだ。





 ◇






【冒険者ギルドの治癒院】


 サーラは先輩の女性治癒士に話しかけられる。


「サーラって最近ヒールのスピードが早くなったよね?」


「セイとの修行のおかげです」


 サーラは両手を組んで祈る。


「セイ君の修行なら強くなれるのは分かるけど、苦しいんじゃない?」


「セイについて行けるなら喜んで受け入れます!」


「そ、そう」


 先輩治癒士はサーラの恍惚とした表情に引いていた。


 セイに魔力を流してもらい、その後ヒールを何度も使う事で、サーラは高速詠唱のスキルを覚えた。






【ギルド演習場】


 アイラはガイは対峙する。


「やあ!」


 アイラは身体強化でガイに迫り、武器強化のスキルを使いつつ袈裟斬りをする。


 ガイは危なげもなく大楯で防ぎ、剣で攻撃に転じた。


 アイラはバックステップで攻撃を躱して再び斬りかかるがガイの大楯が突き出て転倒する。


「参ったよ」


「いいっすよ!動きが格段に良くなってるっす!またかかてくるっす!」


「セイのおかげだよ!」


 アイラとガイが剣で打ち合う。


 ガイはうまく盾で攻撃をいなし、危なげなくアイラの攻撃を完封していく。


「セイについて行くのは修羅の道っすよ!」


「いいもん!頑張る!」


 アイラも急激に身体強化のスキルを上昇させ、武器強化まで使いこなし始めた。


 周りの冒険者がその様子を見つめる。


「アイラ、強くなったよな」


「そうだね、僕より強いんじゃないかな?」


「なんでもセイに魔力を流してもらってるみたいだぞ」


「あの苦しい修行だよね?僕はやりたくないな」


「セイとガイに続いて、冒険者ギルドのエースになるのかもな」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る