第二十五話 火の国へ❶

降り注ぐ太陽の光にタイカは目を覚ました。起き上がる力も十分に湧かず首だけを動かして辺りを見渡した。


そこは見知らぬ誰かの生活感あふれる部屋。細長い板が雑多に貼られ、食器に使われているであろう平たく丸い木と、先を尖らせた何かの枝。壁に何枚か引っかけられた布切れは恐らく下着だ。


誰かしらが暮らしているのは間違いないが、ここでタイカは違和感を覚えた。自分が感じている温もりと光は間違いなく真上から射し込んでいる。おもむろに上を向くと勿論屋根などなく、炭化した屋根材らしき木端が視界の隅に幾つか見えた。


「起きたか?」


外から帰ってきたセイが目覚めたタイカに話しかけた。


「野生児だと思ったが、結構文明的な暮らししてんだな」


「悪態しかつけんのか貴様は」


しかめっ面をしたセイは、濡れた布切れをタイカの顔に投げつけた。


「とりあえず顔を拭いたら出てこい、外でウヤク殿が待ってる」


「お前、これ下着じゃねえのかおい」


「それがどうした、ちゃんと洗ってある。問題ない」


「いや、大ありだろ」


「贅沢言うな」


タイカは息を止めると一思いに顔を拭った。昨日の戦いでついた血と灰でセイの下着は一瞬にして黒くなった。


「タイカさん、大丈夫ですか」


部屋の外からウヤクの声が聞こえる。ゆっくりと上体を起こし、立ち上がった。軽くふらついて壁に手をついた時に壁板を一枚ぶち抜いてしまったが、悟られまいとわざと不機嫌そうな顔をして出て行った。


「辛そうですが、大丈夫ですか」


「心配ない、おかげさまでな」


タイカは今にも吹き出しそうになるのを堪えながら近くにあった切り株に腰を下ろした。


「それでは昨日の話の続きですが」


「ウヤク殿、本当に行くのですか」


「はい、昨日お二人の戦いを見ていてそう決めました」


「どういうことだ?」


「生きる為には強くあらねばならないと言う事です」


タイカは首を傾げる。腕のない女がどうやってここから強くなろうと言うのか。その疑問を察したのかウヤクはすぐに訂正した。


「いや勿論お二人の様に戦える様になりたいと言うわけではありません。自分の意思を強く持たなければいけないという事です」


「ウヤク殿の意思、、、」


「その為に私は、ルエンに行き今の世界の事を知りたいのです」


ウヤクがそう強く言い放ち立ち上がる。その姿にセイは出会った時と同じ神々しさを覚えた。


「俺としちゃ願ったり叶ったりだが、待ってるのは死のみだぜ姫さん」


「私がその時納得して死ねるのなら構いません、いずれにせよいつかはきちんと死ぬつもりですから」


「ふーん」


「ウヤク殿、貴女が死なねばならない理由、聞いても良いか」


「そうですね、セイさんとタイカさんには400年前私がした事と、これからなすべき事、全てお話しします」



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