図書室

 昼休みになった。親から渡されていた弁当を食べ終わると、僕は図書室に向かった。図書室はよく利用する。自分の性癖を自覚した頃から、少しばかり小説を読むようになっていた。そのおかげかは知らないが、他と比べて国語の成績は悪くない。しかし、今日は本を読むために行くのではない。ここは教室と違って静かなので、仮眠をとるのに丁度いい場所なのだ。

 学校の図書室に入ると、その入り口には図書委員おすすめの本が並んでいる。新しく入荷した本はその隣に置かれ、だいだい一月半で入れ替わる。この学校の図書委員の中には熱心に布教活動を行う者がいるらしく、その人があらすじを紹介するポップ付きで一週間ごとにおすすめの本を変えていることも知っている。今日もその人がおすすめする本が新しくなっていた。

 ポップには仰々しく『重い愛情の物語』と大きな文字で書かれていて、その後に小さな字で紹介文が続いている。読んでみると、確かに普通の人なら手を出したいと思えるような代物ではない。代々ヴァンパイアハンターを生業としている家系の少女が若い吸血鬼に恋をして、これを捕らえる。そして、殺さずに自分の家の地下室に監禁して自分の血でその吸血鬼を養い始める、らしい。『もともとはその少女を獲物として見ていた吸血鬼が、いつの間にか従順なペットになっていく様は必見!』だなんて書いてあるが、これを書いたお前は大丈夫か、と問いかけたくなった。

 壁に掛かっている時計を確認すると、まだ昼休みは15分残っている。寝不足で頭痛がする。今日は図書室には誰もいないようだし、壁際のソファに寝っ転がろう。

「あの」

 ソファで横になると、どこかから現れた見知らぬ少女に声をかけられた。おかしい。見渡しても誰もいなかったと思うけど。

「そこで横にならないでください。そういう決まりなんで」

 冷や水を浴びせるような、つっけんどんな言い方だった。

「すみません・・・」

「じゃ」

 彼女はそう言うと本棚整理を始めた。どうやら本棚の影に隠れていたようだ。仕方ないか。ソファに寄り掛かるだけで我慢しよう。目を閉じて、睡魔に身を任せる。

 しかし、やっぱり目を閉じると視界から得る情報量が減るせいか、頼んでもいないのにイメージが浮かんできた。ああ、駄目だ。意識しまいと思うほど意識してしまう。僕の身体があの微かな甘い香りを忘れるまでは、まだまだ時間が掛かりそうだ。

「そろそろ昼休みが終わるんで、出てってください」

「え、あ、わかりました」

 気が付けば、もう15分経っていた。相変わらず無愛想な声ではあるが、わざわざ注意してくれるなんて、結構親切な性格をしている。仮眠を取ったおかげでちょっとは眠気が晴れたかな。教室に帰る足は図書室に向かっていた時よりも気持ち軽くなっているように思えた。

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