第20話 アラウンドワンへ



 香澄ちゃんの「カッコいい」発言の衝撃からようやく解放され、俺達は放課後に遊ぶことになった。

 どうやら俺の妹の優香が提案者で、制服のまま遊びに行きたいとのことだ。


 俺はいくらでも優香のワガママに付き合ってやるが、まさかみんなも一緒に行くとは。

 香澄ちゃんだけじゃなく、汐見さんや健吾まで。


 まあその方が優香も喜ぶし、楽しいだろう。


 そして放課後、校門の前で待ち合わせをしてアラウンドワンという施設に出発する。

 電車に乗って移動している最中、優香が何やら俺のもとまできて耳打ちしてくる。


「お兄ちゃんお兄ちゃん」

「ん? なんだ?」

「今日はまだ、香澄お義姉ちゃんに告白してないでしょ?」

「ああ、そういえばまだだったな」


 確かに今日は俺がまだ昨日のことを引きずっていて、本調子じゃなかった。

 しかし今、ようやくあの深い衝撃を乗り越えて、俺は正気に戻った。


「よし、じゃあ今から告白してくる。なんだか今日はいけそうな気がする」

「お兄ちゃん、戯言はそこまでにしてね」

「優香、お兄ちゃんにあたりキツくない?」

「キツくないよ、普通だよ」


 悲しい、反抗期かな?

 小さい頃はもっと可愛らしい笑顔で「おにいちゃん!」と言ってくれたのに、今では……。


「ぐふふ、お兄ちゃん、作戦を決行する時が来たのだよ」


 なんとも下品な顔で笑う優香、だが笑いかけてくれるということは、反抗期ではないのかな。


「作戦って?」

「前にも話したじゃん。ほら、告白しないでみて、香澄お義姉ちゃんの様子を伺うっていうあれだよ」

「ああ、あれか」


 前に俺が一日だけプロポーズをし忘れたことがあり、その次の日に香澄ちゃんが何か様子がおかしくなって、香澄ちゃんから抱きついたりしてくれたことがある。


 だからもう一回それをやれば、また香澄ちゃんからのアクションがあるかもしれないから、それをやってみようということか。


「うん、だから今日は学校が終わるまで待てたんだから、今こそ作戦決行の時だよ!」

「そうか、そうかもしれないな」

「お兄ちゃん、いい? 今日は香澄お義姉ちゃんにプロポーズしちゃダメだよ? 言ったらぶん殴るからね」

「わかった、絶対に言わない」


 俺と優香は電車の中でそう約束をして、アラウンドワンに到着した。


「私、初めて来たけど……なんで建物の上にボウリングのピンがあるの?」


 香澄ちゃんが上を見ながらそう言った。

 しかしただ上を見上げるという行為でも、香澄ちゃんの可愛さが漏れてるなぁ。


 あっ、垂れてる髪を耳にかけた、可愛い。


「香澄ちゃん、今日も可愛いね」

「え、いきなり? まあ、ありがとう」

「うん、だから俺とけっ――」

「だっしゃぁぁ!」

「ぐふぅ!?」


 優香に腹をぶん殴られた……痛い。


「えっ!? な、なんで誠也をいきなり殴ってるの? 優香ちゃん?」

「あはは、なんでもないですよー。お兄ちゃん、ちょっとこっち来てオハナシしようね」

「は、はい……」


 今まで見てきた優香の笑顔で、一番怖いかもしれない。

 その後、俺はしっかりと躾けられた。



 まず最初にボウリングをすることとなった。

 ボウリングのピンが建物の上にあることだし、やっぱりアラウンドワンといえばボウリングなのだろう。


「よし、スペアだ」


 初めに健吾が投げて、堅実にスペアを取っていた。


「なあ誠也、勝負しようぜ。負けた方がジュース一本奢りな」

「ああ、いいよ」

「誠也くん、やめといた方がいいよ。健吾はスペアからスタートして有利だから勝負を挑んできた卑怯者だからね」

「はっ、奈央は引っ込んでろよ。どうせ俺と誠也の勝負についてこれるわけねえんだから」

「……ふーん」


 少し怖い笑みを保ったまま、次に汐見さんが投げた。

 パコーンと良い音が響き、見事にストライク。


「なっ!?」

「誠也くん、私もその勝負参加していいかな?」

「俺はもちろんいいよ」

「ありがとー。健吾も……いいよね?」

「あ、ああ、絶対に勝ってやる!」


 次は俺だ。

 あまりボウリングはやったことないけど、汐見さんの真似をして普通に投げればいいんだよな。


 よいしょ……よし、ストライクだ。


「……」


 健吾が「マズイ」と書いてあるかのような表情をしているが、まあこれは勝負だしな。


「おー、さすが誠也くんだね。ナイスストライクー」

「ありがとう。汐見さんも上手だね」

「ふふ、結構ボウリングは得意なんだぁ。もう最下位は決まった感じかな?」

「ま、まだわからねえだろ!」


 とりあえずこの三人でボウリング勝負をすることは決まったようだ。


 次に優香が投げるが、惜しくもスペアを逃して九本。

 そして最後に香澄ちゃんが投げるのだが……ガターを二回して、一本も倒せず。


「うっ……」


 わかってたけど、香澄ちゃんはやはり運動神経が悪いから難しいようだ。


「香澄お義姉ちゃん、ドンマイです! 次はいけますよ!」

「う、うん、ありがとう」


 優香にそう励まされた香澄ちゃんだったが、その次もガターを二回。


「が、頑張って、お義姉ちゃん!」

「……うん」


 とても落ち込んでる様子の香澄ちゃん、見てられない。


「香澄ちゃん、投げる時にちょっとしたコツがあるんだよ」

「コツ?」

「レーンの途中に三角形の目印が並んでるのがあるんだけど、見える?」

「あっ、本当だ。レーンの手前側にあるわね」

「うん、それを目印に、どこに投げれば真ん中に当たるかイメージして投げるんだ」

「あそこを目印に、どこに投げればいいかイメージ、ね」


 そして香澄ちゃんはボールを持って、イメージをゆっくりしてから、投げる。

 するとガターにはいかず、見事にボールが真ん中を捉えた。


 スピードがなかったのでストライクとはならず、結果は六本。


「あ、当たった! 誠也、当たったわ!」


 だけどとても嬉しかったようで、香澄ちゃんはとても無邪気に喜んでいる。


「あっ……そ、その、うん、もう一回投げるわね」


 しかし冷静になって恥ずかしくなったのか、頬を赤く染めながらまたボールを構えて投げようとする。


「めっちゃ可愛いな!!」

「ひゃ!?」


 俺が我慢できずにそう叫んでしまい、香澄ちゃんが驚いた拍子にボールを投げてガターになってしまった。


「……誠也?」

「ごめん、香澄ちゃん。だけど香澄ちゃんが可愛すぎるのがいけないと思う」

「は、反省しなさい!」





――――――――


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