「51」遊びに行こう
──誰だ?
──誰なんだ?
頭の中でひたすらに疑問符が浮かぶ。
いくら思い返してみても、出て来る人物はいない。
この時代──幼少期の俺が所有している写真なんてほとんどない。卒業アルバムなんてものもまだないので、調べようがなかった。
なんとか手掛かりを探そうとするが、役に立つものは何もなかった。
「仕方ないか……」
──当初の予定通り、男の子に話を合わせるとしよう。
身支度を適当に済ませると気合を入れ、俺は男の子が待つ居間へと向かった。
──居間で、男の子はテレビを見ながらおばさんが作った焼きうどんを頬張っていた。
なかなかの食いっぷりである。そこまで時間は経っていないはずなのに、もう食べ終わりそうだ。
「またおかわりするかい?」
「あ……どうも……」
おばさんの問い掛けに、男の子はペコリと頭を下げて頷いた──どうやらおかわりを食べ終わりそうなところであったらしい。
どれだけお腹が減っているのかと、呆れてしまったものだ。
「あ……えっと、あの……」
俺に気が付いた男の子が、何やら言いたげにモゴモゴと口を動かした。
「ごめん、準備が終わったよ。待たせたね」
俺が謝ると、男の子は俯いてしゅんとなってしまった。
「ん、どうしたの?」
尋ねてみるが、男の子は黙ったままになる。
気まずい沈黙が流れた──。
「出掛けるんじゃなかったっけ?」
「あ、うん……そうだね」
沈黙に堪え兼ねて俺が口を開くと、男の子も頷いた。
皿に残った焼きうどんを一気に口に頬張る。
「あらあら、そんなに無理に食べなくても……」
「いえ。美味しかったです。残すのも勿体なかったので……ご馳走様!」
「太蔵君はどうするの?」
おばさんに尋ねられて、そう言えば自分が何も口を付けていないことを思い出す。
適当にお菓子をポケットに詰め込む。
「帰ってから食べるから大丈夫だよ」
──限界が来たら、このお菓子で凌ぐとしよう。
子どもが夕方から出掛けるのだ。そう時間が掛かるものではないと踏んで、俺は空腹を我慢することにした。
「それじゃあ、行こうか」
「う、うん……。ご馳走様でした」
改めて、男の子はおばさんにお礼を言った。
余程、お腹が減っていたのだろう。心底、感謝しているようだった。
夕飯時なので、家でご飯を食べてから出て来れば良いのに──と男の子の行動に呆れてしまったものだ。
「あ、そう言えば、さっき何か言い掛けなかった?」
玄関に向かって部屋の中を歩きながら、俺は男の子に尋ねた。何かを言いたそうにしていたが、黙ってしまって聞けなかった。
「いや。いいよ、いいよ……うん」
男の子はそう言いながらブンブン首を振るった。
──まぁ、良いなら良いが……。
そうして俺は玄関で靴を履き、名も知らぬ友人と共に家を出発したのであった。
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