「37」面会手続き

 大学病院の前にやって来た俺は建物を見上げて、息を呑んだ。大病院に入院しているのだ。それだけでハズィリーの病症の重篤さが伺える。


 入り口で同級生の男の子が面会手続きをしてくれている中、俺は病院の中を見回していた。

 病気や怪我、様々な傷を負った人々が俺の横を通過していく。


「太蔵君、いこうよ」

 同級生の男の子に呼び掛けられ、俺は振り向いた。

 面会の手続きが終わったようである。

 面会に来たことが分かるようにプレートを首から下げ、俺達はエレベーターに向かって歩いた。

 同級生の男の子が聞いてきた情報によると、ハズィリーは入院棟五階の病室に入院しているらしい。


 エレベーターに乗って、俺達は五階へと上がって行った。


 ハズィリーの笑顔がチラついた。

 僅かな時間であったが会話を交わし、一緒に食事をした。心の距離も近付いたところでの突然の別れだった──。

 ハズィリーに再び会える。

 彼女はどんな状態なのだろうか。


 廊下を歩きながら俺の胸は高鳴った。


「ここ、みたいだね……」

 同級生の男の子が、病室で足を止めてプレートに目を向けた。確かに『白井様』の文字。

 この個室部屋に、ハズィリーは居るようだ。


──トントンッ!


 俺が心の準備をするより先に、同級生の男の子はドアをノックした。

 一応、友人とはいえ女の子の部屋に勝手に入るわけにはいかない。

「白井さん……お見舞いに来たんだけど……。太蔵君も一緒だよ」

 他の患者さんの迷惑にもなるので、廊下であまり騒ぐわけにはいかないだろう。遠慮がちに、同級生の男の子は部屋の中に声を掛けた。


『どうぞ……』


 か細い声がドア越しに、病室の中から聞こえてきた。


「失礼します」

 俺達は気を配りながらドアを開けて病室へと入って行った。

 そして──そこでハズィリーの可哀想な姿を目の当たりにすることになるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る