世界樹の巡り人 1章 邂逅のバナーバル
くらんど
第1話 プロローグ①
ダニアと呼ばれる星、唯一の陸地であるユーストリス超大陸には世界樹の伝説があった。
聖地を守る守護山脈に囲まれた世界の中心に、天地を貫き星を繋ぐ世界樹があると。
かつて神々と人間の戦いによって大地は割れ、世界が切り裂かれた時、
その身は輝く緋色の大樹と化し、砕ける世界を繋ぎ止めたのだ。
しかし女神ダナートニアがその身を犠牲にしても、戦いは収まらなかった。
争う愚かさを知った神々は姿を消したが、
皮肉にも、世界樹がもたらす奇跡の資源「
女神は嘆き、人間もろともこの世の全てを凍てつかせ、氷の元に全生命を眠らせた。
そして、女神は言った。
「今、幼い時代は氷によって滅びました。
新たなる時代が生まれた時、星を食い尽くす者達が今一度大地に溢れるならば、
我が子ら、神域の守護者らによりて、再び世界は滅びるでしょう」
と……。
幾万の年月が流れ、人は再び文明と繁栄を取り戻した。
だが、愚暗な人類はふたたび重銀を求めて戦争を招いてしまう。
北の強国エンブラ帝国は、新たな重銀の産出地アウルカ国に武力侵攻を開始。
戦狂いの王族・戦姫ヒルド率いるエンブラ軍は、エンブラの最も近くに位置するゴカ村を突如として強襲する。
一方的な殺戮が繰り広げられる中、赤髪の兵士グエン・クロイドはただ一人抗い続けていた。
青い空の下、深い森を切り裂くように伸びた一本の未舗装路。
この道を一台のモービルが砂塵を巻き上げて走っていた。
モービルを運転するのは、赤い髪の男グエン。
彼の腰には黒拵えの刀が吊るされ、車体の振動で揺れる。
纏う青い強化樹脂の全身プロテクターには深い斬撃痕が無数に刻まれている。所々赤く染まっているのは、返り血と自身の血だった。
モービルの2000ccの大型エンジンが唸り、鼓動音が木々の葉を揺らす。
大型バイクであるモービルは、後輪に太いタイヤを履き、前輪は細めのタイヤが二本並ぶ。
三輪で三名乗車可能な大型の車体が、通常のバイクとの相違点だ。
砂煙をあげて疾走するモービル、時おり前輪のタイヤの間に拳大の石が挟まるが、タイヤの回転で弾かれフロントフェンダーに激突して激しい音を立てる。
地面には雨水の流れで気まぐれに刻まれた無数の溝。溝は石ころと同様に簡単にバイクを転倒させるが、三輪のモービルは悪路をものともせず走った。
だが、点々と横たわる兵士達の死体では話が違う。
グエンは体を傾け、モービルを右に左にスラロームさせていく。
道に転がる兵士は皆、青い軍服を着ている。青は、グエンが属するアウルカ軍の色だった。黒い軍服、エンブラ兵の死体は一つもない。
「くそ! 誰か生きてるやつはいないのか!」
必死に回避を続けるも、避け切れない死体をモービルが乗り越えていく。
転倒させまいとハンドルを握り、グエンはスロットルを開けた。
精悍な顔立ちに似合う鋭い眼光が涙に濡れる。
歯を食いしばるグエン、頬を伝う涙が走行風に吹き飛ばされて消えていく。
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