エピソード 3ー4

 柊木大将の邸宅にある一室。

 私と雨宮様は、大理石の大きなテーブルを挟んで柊木大将と向き合っていた。

 前回お目にかかったときは、威厳はあるが、同時に人当たりがよさそうな印象を抱いたのだけど、いまの彼からはこちらを威圧するような迫力が感じられる。


「雨宮少佐、それにレティシア嬢だったな。孫娘のことで内々に話があると聞いたが、一体なにを企んでおる? わしを脅すつもりなら相応の代償を支払うことになるぞ」


 決して大きな声ではない。けれど、びりびりと響くような重低音。私は息を呑み、彼が大きな誤解をしていることに気が付いた。それに気付いた雨宮様が口を開こうとするけれど、私は彼の袖を引いて遮り、代わりに「私がお話します」と立ち上がった。


「柊木大将閣下、まずは誤解を招いたことを謝罪します。その上で説明させてください。我々がしたいのは交渉であって脅迫ではありません」


 しばしのにらみ合いが続く。

 ほどなく、彼は自らが放っていた威圧を霧散させた。


「……ふむ。どうやらそなたらを誤解していたようだな。座りなさい、話を聞こう」


 私は一息吐いて席に座り直し、それでは――と、地下の研究所で見つかったオルレアの聖杯について説明する。聖樹の雫という、瘴気を浄化し、妖魔化を防ぐ秘薬を作る道具だ、と。

 可愛い孫娘を救いたい彼には、喉から手が出るほど欲しい薬のはずだ。だけど、私の説明を聞き終えた彼は険しい顔で、そのまま不満気に口を開く。


「……つまりそなたは、軍の貴重な物資の横領をしろと、わしに言っているのかね?」


 予想外の答えだ。想像していなかったので、とっさに答えが出てこない。そうして応えあぐねていると、代わりに雨宮様が口を開いた。


「柊木大将閣下、これは横領などではありません。オルレアの聖杯には貴重な素材が必要なのは事実ですが、それらは軍部で用意することが出来ませんので」

「では、一体わしになにを求めておる」

「巫女殿を見つけ出すペンダント。あれに使われる石です」

「あれか……それならば理解できる。軍で貸与している分を除けば、入手出来る者は限られているだろうからな。だが、条件はそれだけではないのだろう?」

「後は巫女召喚の儀に使われた広間の使用許可です」

「なるほど……理解した。その二つがあれば、その聖樹の雫は作れるのか?」

「いえ、それと――」


 雨宮様が私に視線を向ける。

 私はその視線を受け、その続きを説明するべく口を開いた。


「もう一つ、とても貴重な材料が必要となります」

「貴重な材料? それは、巫女を見つけるための石よりも貴重なのか?」

「あの石がこの国でどれくらい貴重かは分かりませんが、私が持参する素材は非常に貴重です。少なくともこの世界では、私が次の入手機会を得ることはないでしょう」

「……なるほど、異世界由来の素材、ということか」


 私はその問いに首肯のみで応えた。私が死ねば、その体内からもう一つ入手出来る――なんてことはもちろん口にしない。


「いいだろう、その取り引きに応じよう。巫女に反応する石はすぐに用意させる。それと、巫女召喚の儀に使用した部屋の使用許可も数日中に下りるだろう」

「感謝いたします、柊木大将閣下」


 私が深く頭を下げると、彼は「礼を言うのはこちらの方だ」と応じた。


「わしは祖父として、孫娘を救いたいと心から願っておる。だが、この国を護る帝国軍人としての責務を投げ出すことが出来なかった。そなたがおらねば、わしは妖魔になる孫娘を見護ることしか出来なかっただろう。ゆえに、そなたはわしや孫娘の恩人だ」


 頭を下げるその姿に少しだけ驚いて、私はすぐに笑みを返した。


「感謝の言葉は、お孫さんを救ってからにしてください」

「ああ、もちろんだ。そのときはあらためて礼をさせてもらう」


 前回の一件、高倉の件を闇へと葬った手際を見たときは優秀だけど冷酷な人間――というイメージだったけど、その印象が大きく変わった。

 柊木大将は国のために冷酷に振る舞っているけれど、本当は優しいお爺さんだ。


「……そういえば、お孫さんに妖魔化の兆候が出た原因は分かっているのですか?」


 聖樹の雫を使って瘴気を浄化しても、再び瘴気を取り込んでは意味がないと心配する。


「それなら心配には及ばぬ。いや、それもそなたのおかげ、というべきか」


 私のおかげ? と小首をかしげると、雨宮様が「柊木大将閣下のお孫さんは、貧民への炊き出しに参加していたんだ」と耳打ちしてくれた。

 つまり、炊き出しに参加して、瘴気に侵された作物を摂取していたということだ。

 それも、妖魔化の兆候が現れるほど頻繁に。

 それを理解した私は、胸のまえできゅっと拳を握り締めた。


「柊木大将閣下、必ず聖樹の雫をお届けいたします」


 蓮くんや自分のためだけでなく、そのお孫さんのためにも頑張る。

 私は心から、柊木大将のお孫さんを救いたいと思った。



 柊木大将との交渉が無事に終わり、巫女召喚の儀に使われた広間の使用許可はすぐに下りた。よほどお孫さんが心配なようで、巫女に反応する石も翌日には届けられた。

 後は美琴さんだが、こちらも井上さんがすぐにスケジュールを空けてくれた。


 ということで、私は巫女召喚の儀に使われた広間にやってきた。私の作業に立ち会うのは水瀬さん、雨宮様、美琴さん、井上さんの四人である。


「それでは、準備を始めます」


 オルレアの聖杯を、儀式の間の中心に用意した祭壇の上に置く。ちなみに祭壇はなんでもよかったのだけど、異空間収納にしまっていたそれらしい祭壇を使用している。

 続いて用意するのは、巫女を選定するのに使う石。

 柊木大将から贈られたそれを、雨宮様がケースの上に乗せて持ってくる。

 それを見た瞬間、水瀬さんが質問だとばかりに手を上げた。


「はい、水瀬さん。なんですか?」

「オルレアの聖杯は異世界の魔導具なのですよね? なのに、どうしてこの世界に存在する石を素材として使用するのでしょう?」

「……故郷に似た特性を持つ石があるんです」


 最初に見たときは、私に反応しなかったから気付かなかった。でも、魔封じの手枷を外した私に反応したことで理解した。あの石は比翼石と呼ばれる魔石だ。

 聖属性の力に呼応し、光を放つ特性を持っている。


 それをハッキリ言わなかったのは、あの石が巫女以外にも反応するという事実を、美琴さんや水瀬さんには教えていないからだ。

 だけど――


 私が雨宮様から比翼石を受け取ると、石は眩い光を放った。事情を知っている雨宮様と井上さんはともかく、水瀬さんと美琴さんは大きく目を見張る。

 私に巫女と似たような力があると気付いたのだろう。


「レティシア嬢、いまのは、まさか!?」


 水瀬さんが詰め寄ってくる。

 だけど私は小さな笑みを浮かべながらも、首を横に振った。


 最初にその事実を伏せたのは、面倒ごとに巻き込まれたくなかったからだ。でも、いまの私は聖女として生きる決心をしているので、打ち明けてもいいと思っている。

 とはいえ、瘴気に侵されているあいだは思うままに力を振るえない。すべてを打ち明けるのは、聖樹の雫で瘴気を払ってからにするつもりだ。


「私は巫女ではありません」

「巫女ではない? では、キミは一体……」

「それについてはいずれお話します。ですが、いまは――」


 オルレアの聖杯を使うことに集中させて欲しい。そう言外に訴えかければ、マッドサイエンティストな水瀬さんはすぐに頷いてくれた。

 もちろん、美琴さんは美琴さんでなにか言いたげな顔をしていたのだけど、こちらも追求してくることはなかった。私は聖樹の雫を作る作業を再開する。

 次に用意するのは、水瀬さんから返却してもらった聖属性の魔石。

 ――後輩だった、生意気で可愛い女の子の形見を手のひらに乗せる。


「……遅くなったけど、貴方の力、いまここで使わせてもらうね」


 死してなお、聖女は人々を救う。という格言がある。亡くなった聖女の魔石が人々を救うために使われるのは、聖女にとっての誉れとされている。

 後輩の魔石をいままで使わなかったのは、私のわがままだ。


 私は黙祷し、それからオルレアの聖杯に魔石を落とした。聖属性の魔石と反応し、比翼石が眩い光を放ち始める。私はそれを確認し、聖水の代わりに用意したご神水を杯に注ぐ。


「魔導具を起動します。……美琴さん。これからおこなう作業はおそらく、貴方が最終的に覚えるであろう巫女の術、浄化の参考になるはずです」

「浄化、ですか?」

「ええ。瘴気を払う力のことです。独学で身に付けるのは大変ですが、魔導具の動きを感じ取ることが出来れば、美琴さんの大きな助けとなるでしょう」

「……分かりました。勉強させていただきます!」


 おおよそのことは井上さんから聞いていたのだろう。美琴さんは素直に頷き、その視線をオルレアの聖杯へと注ぎ始める。その率直さはどこか、後輩だった聖女に似ている。

 あの子も、こうやって私の技術を学ぼうとしていたっけ……


 少しの懐かしさと哀愁の念を抱きながら、私はオルレアの聖杯の側面に填め込まれた魔石に指を添え、自らの魔力を流し込んだ。

 とたん、聖杯に沈めた石達が反応を始める。比翼石がいままで以上に眩い光を放ち、聖属性の魔石が聖なる力を放つ。二つの石は溶けて力となり、ご神水の中で混ざり合っていく。

 それを横目に、私は美琴さんへと視線を向ける。


「美琴さん、魔力の流れは感じられますか?」

「魔力、ですか?」

「巫女の術を使うときに力の流れを感じるでしょう? それと似た力が、この聖杯の中を流れているんですが……感じられますか?」

「ええっと……あ、はい、分かります!」

「いいですね。では、その力の流れに意識を傾けてください。その流れは、浄化の術を使うときの動きとよく似ているはずですから」


 私がそう言うと、水瀬さんは真剣な面持ちで魔力の流れに意識を傾けた。その横顔を見守っていると、ほどなくしてオルレアの聖杯が放っていた光が消えていく。

 完全に消え去るのを待って、私は聖杯の中を覗き込んだ。


「……完成、していますね」


 ご神水は嵩を減らし、底の方にわずかに液体が残っているだけだ。だけどそれこそが、聖樹の雫。聖属性の力が濃縮された秘薬である。

 私は慎重に、その液体を三つの小瓶へと移す。


 二つはなみなみと注いで、私と柊木大将のお孫さん用。そして少しだけ注がれた三つ目は、水瀬さんに渡す研究用である。

 その三つ目を水瀬さんに手渡し、私は他のみんなへと視線を向けた。


「これにて、オルレアの聖杯を使用した儀式は終了いたします。おかげで聖樹の雫を完成させることが出来ました。皆様、ありがとうございます」



 儀式を終えた後、私はすぐに解散を促した。

 水瀬さんは色々と聞きたそうにしていたけれど、「さきに聖樹の雫を研究してはいかがですか?」と唆せば、彼はそれもそうですねと帰っていった。

 という訳で、私は雨宮様と共に再び柊木大将の邸宅を訪ねた。


 一度目はパーティーを隠れ蓑にという迂遠な面会方法だったけど、二回目は玄関で名前を告げた途端、応接間へと通された。

 部屋の真ん中に大理石のローテーブルがあり、その四方を囲むようにふかふかのソファが置かれている。そこで一息を吐く暇もなく、柊木大将が部屋に飛んできた。

 私と雨宮様は立ったままで柊木大将と挨拶を交わす。


「これは柊木大将閣下、突然の訪問をお許しください」

「堅苦しい挨拶は必要ない。それより、聖樹の雫とやらは出来たのか?」

「はい。こちらが聖樹の雫です」


 私が事前に異空間収納から取り出していたポーションの小瓶を差し出すと、彼は恐る恐るといった所作で小瓶を手に取った。


「おぉ……これが、聖樹の雫なのか?」


 柊木大将は小瓶を宝物のように扱いながらも、期待と不安をないまぜにした表情を浮かべている。私は彼を安心させるように微笑んだ。


「入れ物は回復ポーションと同じ小瓶ですが、中身は聖樹の雫です」

「入れ物などどうでもいい。これを孫娘に飲ませれば、妖魔化の兆候が消えるのだな?」

「はい、その通りです。ただし、瘴気が完全に浄化されるまで、数日ほど寝込むことになると思いますので、そこだけはご了承ください」

「寝込む、だと? 後遺症はないのだろうな?」

「妖魔化の度合いにも寄りますが……兆候が出ている程度なのですよね? であれば、後遺症などは残りませんし、寝込むのも二日、三日程度なので安心ください」

「そうか、分かった」


 柊木大将がハンドベルを鳴らすと、ほどなくして初老の男がやってきた。先日、パーティー会場で私達にハンドタオルを差し出してくれた執事だ。


「銕之亟様、お呼びでございますか?」

「至急、理々栖(りりす)達を呼んできてくれ」

「かしこまりました」


 執事が退出するのを見届けた彼が振り返る。


「すまないが、理々栖達が来るまで席で待っていてくれるか」

「もちろん、かまいませんが……」


 私は言葉を濁して雨宮様と顔を見合わせる。柊木大将閣の勧める席が上座だったからだ。

 相手は神聖大日本帝国陸軍の大将で、私達はその末端、あるいは取り引き相手でしかない。普通に考えれば、下座に座るのは私達の方だ。

 試されているのかと思ったのだけれど、彼は「どうか座ってくれ」と続けた。


「……それは、お言葉に甘えて」


 私は腹をくくって上座に座る。雨宮様が少し焦った素振りを見せるけれど、最終的には私の隣に座った。それを見届け、柊木大将は側面のソファに座る。

 しばらく待っていると、若い男女が十歳くらいの女の子を伴って姿を現した。その様子から、孫娘の理々栖ちゃんと、その両親だろうとあたりを付ける。


 その直後、理々栖ちゃんの父親らしき男が、上座に座っている私達に気付いて目を見張り、ゴクリと喉を鳴らして柊木大将に視線を向けた。


「お父様、理々栖をお呼びだとうかがいましたが……」

「ああ。重要な話がある。二人ともそこに座りなさい」


 彼らは勧められるがままに夫婦が下座のソファに座る。理々栖ちゃんは、こっちへ来なさいと手を伸ばした柊木大将に従い、彼の膝の上に腰掛けた。

 そうして、背中越しに柊木大将を見上げる。


「お祖父様、私になにかご用ですか?」


 ちょっぴり舌っ足らずな口調でそういって小首をかしげる。神聖大日本帝国陸軍の大将がデレッとした顔になるけれど、それも仕方ないと思えるような可愛らしい女の子だった。


「理々栖、彼らは雨宮少佐とレティシア嬢だ。ご挨拶なさい」

「えっと……私は理々栖っていいます。初めまして!」


 本当に可愛らしい。こんなに礼儀正しい子が瘴気に侵されていると知って胸が痛くなる。

 私は彼女に目線を合わせて微笑んだ。


「初めまして。今日は理々栖ちゃんのお薬をもって来たんだよ」

「私のお薬、ですか?」


 こてりと首を傾けた理々栖ちゃんは、柊木大将に助けを求めるように視線を向けた。


「彼女の言葉は信じていい。薬を飲むと数日は寝込むことになるが、その後は妖魔化の兆候に怯える必要はなくなるそうだ。もちろん不安だと思うが……」

「――飲みます」


 理々栖ちゃんは間髪入れずに答えた。

 それに慌てたのは理々栖ちゃんご両親だ。


「待ちなさい、理々栖。そんなに簡単に決めていいことではない!」

「そうよ、理々栖。いくらお義父様のお言葉とはいえ、貴方の一生を左右することなのよ? もう少しちゃんと考えてから答えなさい!」


 二人は慌てふためくけれど、理々栖ちゃんは首を横に振った。


「私、お父さんとお母さんに元気になって欲しいの」

「……なにを、言っているんだい?」

「そうよ。病気で辛いのは理々栖じゃない!」


 戸惑う両親に、けれど理々栖ちゃんはもう一度首を横に振った。


「お父さんとお母さんが毎晩、私のために泣いてるの知ってるよ。どうしてこんなことになったんだろう? 炊き出しに参加させなければ――って、いつも言ってるよね?」


 部屋の空気が凍り付いた。理々栖ちゃんの両親が、非情にばつが悪そうな顔をする。でも、理々栖ちゃんは笑顔で続ける。


「だからね、私は元気になりたいの。お父さんやお母さんがこれ以上悲しまないように」


 健気な理々栖ちゃんが可愛すぎる。両親や柊木大将はもちろんのこと、雨宮様まで理々栖ちゃんの想いにあてられたように拳を握り締める。

 もちろん私も理々栖ちゃんを助けたい。


「理々栖ちゃんのご両親ですね?」

「はい、父親の修蔵で、こちらは妻の真名と申します」


 修蔵と名乗った父親が、隣にいる奥さんも紹介してくれる。

 その上で、彼は私に何者かと尋ねてきた。


「私はレティシア。異世界より召喚された人間です」

「あぁ……貴女が噂の。……っ。では、薬というのは?」

「異世界で使われている秘薬です」

「なるほど。お父様が貴方と交渉してくださった、と言うことか……」


 ゴクリと喉を鳴らし、物思いに耽る修蔵さん。事情を飲み込めない真名さんが「貴女、どういうことですか? 異世界の薬というのは一体……?」と尋ねた。


「詳しくは話せないが、彼女は異世界の住人で、軍部に特殊な薬を提供してくれている」

「薬を? では、理々栖の症状は本当に治るのですか?」

「ああ、そのはずだ。少なくともお祖父様が信じるに値すると判断したから、私達がここに呼ばれたのだろう。そうですよね、お父様?」

「うむ。わしは信じるに値すると判断した。もしも理々栖になにかあればこの腹を切ろう」


 腹を切るという言葉に私はぎょっとする。でも、召還されたときにこの国の言語を身に付けた私は、腹を切るのが、責任を取るという意味であることを思い出して納得する。

 理々栖ちゃんのご両親も柊木大将の言葉に覚悟を決めたのか、分かりましたと頷いた。


 そこからはあっという間だった。

 理々栖ちゃんは聖樹の雫を受け取ると、なんの迷いもなく飲み干した。


「……理々栖、どう? 気持ち悪くない?」

「はい、大丈夫です。でも、なんだか……身体がポカポカしてきました」


 ものの数分で、理々栖ちゃんの顔が熱に浮かされたように赤くなる。

 瘴気を浄化する副作用で熱が上がっているのだろう。


「二、三日はこの状態が続くと思います。ゆっくり休ませてあげてください」

「おまえ達は理々栖をベッドに運んでやりなさい。わしはこの方達に話がある」


 柊木大将がそういうと、修蔵さんが理々栖ちゃんを抱き上げた。


「レティシアさん、理々栖が治ったあかつきには、必ずご恩に報いると約束いたします」

「……対価は既に柊木大将閣下からちょうだいしております。どうかお気になさらず。理々栖ちゃんが早く元気になるように、心からお祈り申し上げます」


 私は理々栖ちゃんに手を振って、元気になるんだよと送り出した。

 そうして、再び柊木大将閣下と向き合うことになった。


「さて、レティシア嬢、わしに望むことはあるか?」

「修蔵さんにも申し上げましたが、私は既に対価を受け取っております。それでも――とおっしゃるのであれば、特務第八大隊への支援をお願いいたします」

「いいだろう。では、その件については笹木大佐と話し合うとしよう。だが、覚えておくといい。この柊木大将が、そなたになにかあれば必ず力になる、と」

 

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