じゅういち。未来のお話




「菜乃花、起きて」

「んんっ……や、眠い」

「菜乃花、ほら、夜眠れなくなっちゃうよ」

 大晴の柔らかい声を頼りに、隣で寄り添っているはずの彼を探すが、見当たらず、私は重い瞼を上げて、何度か瞬きをした。

「なんで大晴、そっちいるの?」

 一緒にお昼寝していたはずなのに、先に起きたのかな。

 大晴はベッドの横で私を穏やかに見つめていた。

「菜乃花、聞いて?」

「んー……。」

 まだ眠くて、瞼がどんどん下がっていく。けれど大晴に触れたくて手を伸ばすと、大晴は私の手を握った。その時、なんだか違和感を感じて、目をゆっくり開ける、と。

「菜乃花、」

 大晴は一度手を離して、私の左手の指先にそっと触れ、握った。

私の左手、薬指には——。

「俺と結婚してくれませんか」

 大晴の柔らかく優しい声に溶かされていくように、ぼんやりとしていた頭がゆっくりと明瞭になっていく。

「け、っこん?」

 言葉をなぞった私の頬を大晴が撫で、「そう、結婚」ともう一度言葉にする。

「俺の奥さんになってくれる?」

 あまりにも優しい声で言うものだから。

「っ、おき、る」

 起き上がりベッドから降りて、大晴に抱きしめてもらう。優しく丁寧に頭を撫でられて、私はやっぱり泣いてしまった。結局、我慢できず泣いてしまう。

「……う、なん、っで、いつの間に」

「菜乃花、ほら、返事は?」

「ん、うん、結婚するっ」

 何度も首を縦に振ると、大晴は笑って「ありがとう」と私の髪にキスを落とした。

「一緒にいられるように、離れないように、すれ違った時はいっぱい話そう。ね、菜乃花」

「うん、いっぱい話して、一緒にいられるように、いっぱい考えようね」






 だからね、好きになる理由なんて並べてないで、本当はもうわかっている自分の気持ちを、あの人に、伝えてみて。素直になって。泣いてしまっても、貴方が好きになった人なんだから、きっと受け止めてくれるはず。受け止めて、話を聞こうとしてくれるはずだよ。

このまま何もしなければ何も変わらない。だから、どうせ上手くいかないと思うのなら、どうせ駄目に決まってると思うのなら、気持ちを伝えて、あの人の困った顔を見てやればいいんだよ。愛したいと思う人よりも愛されたいと思う人の方がきっと多い中で、あの人を愛せる貴方はとても強くて綺麗なの。


 どうかその愛し方が、貴方自身を幸せにしてくれますように。



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好きになる理由なんて並べるな 葉月 望未 @otohana

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