第45話 アンボルタンとの戦い②

 セリスが難なく敵を切り伏せていく。

 その様子を見て、クローズは舌打ちをしながらも軽く笑みを浮かべていた。


「てめえらは強いんだろうな……だがな、俺はもっと強い! てめえらみたいなドアホには負けねえんだよ!」


 クローズは手にした玉を片手で持ち上げ、そして目を見開く。


「【転魔の宝玉】よ! 俺に力を寄こせ!!」


「!?」


 【転魔の宝玉】。

 クローズが持っている宝玉を見て、俺は目を点にさせる。

 もし奴が言っていることが真実だとするなら……

 あれが本物の【転間の宝玉】だとするなら、ランクⅣのアイテム。

 伝説級のアイテムだ。

 

 名前ぐらいは俺も聞いたことがある。

 その身を魔人と化す、禁断の道具。

 あれを使い続ければ、心までも魔に落ちると言われている。

 奴があれだけ常に怒っているのも、あれが原因なのだろうか?


 宝玉から闇が漏れ始め、そしてクローズの体を飲み込んでいく。

 最初、闇はクローズのをしていたが、徐々にその姿を変化させる。


「終わりだ、てめえら……覚悟しろ」


 闇が晴れ、中からクローズの姿が現れる。

 それは人間の姿ではなかった。

 身体全体が黒い鱗に覆われ、巨大な翼が背中から生えている。

 瞳は狂気に満ちており血走いて、身体も一回りほど大きくなってようだ。


 突然の飛翔。

 先ほどとは比べ物にならない程の圧倒的な速度。


 一瞬で俺との距離をゼロにする。


「どうだ、迅いだろ」


「迅いな。でも、反応できないってほどじゃない」


 『伸縮剣』を横に振り、奴の胴体を切り裂こうとする。

 が、奴は翼を広げ、上に避けてしまう。


「また面倒な動きを……」


「面倒なのはてめえだろ、ドアホ。相手が強くてこの力を使うのは初めてなんだぜ? 光栄に思いながら死んでいけ」


「だったら後悔させて死なせてやるよ。俺たちと出逢ったのが運の尽きだったってな!」


 クローズが宙で旋回行動をする。

 動きは読みづらい。

 まるでハエのように宙を舞っている。


「このっ!」


 『伸縮剣』を伸ばし、クローズを狙う。

 クローズはそれを見てニヤリと笑い、セリスの方へと飛んで行く。


「セリス!」


 俺はもう一本の『伸縮剣』でクローズの首を狙うも……届かない。

 セリスの方へと向かう奴を止めることが出来なかった。


 しかしセリスは俺の声に反応し、クローズの突進を回避する。

 避けた奴の鋭い爪は壁を切り裂き、それを見ていた町の人たちが悲鳴を上げた。


「な、なんだあの化け物は……」


「この二人も強いけど……二人以上じゃないか?」


「いやいや、まだ俺たちは負けてないぞ」


「フェイトさん!」


 後ろを守っていたミューズの叫び声が聞こえる。

 後方の瓦礫が崩れ、敵が一斉に雪崩れ込んで来た。


「くそ……」


 俺は壁を走り、町の人たちを超えてミューズの元へと急ぐ。


「セリス! 皆を守ってくれ!」


「ああ!」


 敵は俺とセリスに挟まれる形を取っていたのだが……セリスは雑魚を吹き飛ばし、全速力で町の人たちの前に付く。


 俺はミューズの横に立ち、目の前の敵を対処していく。


「すみません……ちょっと私じゃ無理みたいです」


「いいや、ミューズは十分やってくれているよ。後、まだ援護してくれるなら助かる」


「が、頑張ります!」


 『伸縮剣』の餌食となっていく敵。

 さらにミューズの包丁が奴らを襲う。

 数的には十分しのげそうなのだが……

 問題は奴だ。


「そうかそうか……そいつら庇いながら戦ってるのか、ドアホ共が」


「ひっ!?」


 クローズが標的を突然町人へと変更をする。

 セリスを無視するかのように上空を飛び、そして町の人たちを爪で切り裂こうとしていた。


「や、やらせません!」


「お?」


 ミューズが包丁を放り投げるが、クローズは当たる寸前のところで回避する。

 町の人たちは恐怖に顔を引きつらせ、ガタガタと震えていた。


「ははは! ドアホ! 俺にそんなもんが当たるかよ!」


 クローズは醜悪な笑みを浮かべて町の人たちを見下ろしている。

 そして爪を上げ、残酷に、無慈悲に、振り下ろした。


「ぐぅうううう……」


「……ヒューズ」


 町の人たちがやられそうなのを守る男が一人。

 それはヒューズであった。

 彼は町の人たちの前に立ち、その身で爪を受ける。

 

 胸は引き裂かれ、大量の血を口と胸から噴き出していた。


「ヒューズ……てめえ」


「俺は……俺は仲間を売った……だからこれぐらいやって当然なんだ……正直許してほしい……できるならこれからも同じ町の人間として皆と生きていきたい……」


 倒れるヒューズ。

 その彼の身体を支えたのは彼を怒鳴っていた男性だった。


「許す! 俺も感情的になってすまねえ! だから……死ぬんじゃねえ!」


「へへへ……その言葉だけで十分だ……それだけで、胸を張ってあの世に行けるよ……」


「ヒューズ……」


 ヒューズは絶命した。

 守ることができなかった。

 助けられなかった。


 喪失感を覚えながらも、俺は怒りに震える。


「クローズ……お前だけは絶対に許さない!」


「許さないってか? 人一人殺されたぐらいで何怒ってんだよ、ドアホ。こっちだって妹が殺されてんだ。お互い様だろうが」


「お前らみたいな悪人じゃないんだよ、この人たちは! これ以上はもう殺させない!」


「殺させないって、どうするつもりだ? 雑魚は俺の目の前。どうしたって助けられないぜ」


 セリスは目の前の敵に精一杯。

 俺も後方の守備に手を放せず、クローズの下まで向かうことができない。


 どうすればいい……どうやって皆を守る。


「ははは! じゃあどんどん殺していくぜー」


「待ちなさいよ」


「ああ?」


 セリスが戦っている敵の後方……

 入り口の方角であろう方向から一人の女性が姿を現せた。

 その女性の顔を見て、俺は驚きながらも歓喜を爆発させる。


「……メリッサ!」

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