第25話 ヴァロンの切り札

「ダ、ダメだ……こんな奴らに敵うわけがない……」


「黒騎士は知っているが……もう一人の男は誰だ? あんな化け物、見たことも聞いたこともないぞ」


 全ての敵を倒し、倒れた男たちは俺らを見上げて驚愕の表情を浮かべている。

 セリスに対しては純粋な恐怖心を抱いているようだが……俺に対しては唖然としている様子。

 強そうに見えなくて悪かったな。


「ほ、本当に強い……お二人は最強ですね!」


「最強って……これぐらいの相手に勝ったぐらいでそんな大層なこと言えないでしょ」


「ああ。相手はただの雑魚だった。弱くないなんて嘘だったようだな」


「くっ……」


 ヴァロンが歯を噛みしめ俺たちのことを睨んでいる。

 俺はヴァロンに【伸縮剣】の先端を向け、余裕の声で言う。


「ヴァロン。もう終わりだ。セリスにやられるか俺にやられるか好きな方を選べ。あ、この子に金を返した後にな」


 最初は金を返してもらうだけの話だったのに、大ごとになったもんだな。

 倒れている男たちの方をチラリと見て俺はそう思案する。

 って、大ごとにしたのは俺たちか。


「お勧めは私だぞ。私を相手にするなら熱いだけで済むからな。フェイトは……何をするか分からんぞ。まるで手品師みたいな奴だからな」


「ううっ……」


 何も無い空間からアイテムをポンポン取り出す姿は手品師のようってか……

 うるさいよ。と言いたいところだけど根も葉もある事実だから困る。


「お前に時間を使うほど暇じゃないんだよ。さっさとどっちか選べ」


「だったら……」


 しかしヴァロンはニヤリと笑う。

 まだ何か企んでるのかよ。


「お前たち二人を同時に倒すと言うのはどうかな?」


「はぁ? どうやって倒すんだよ。お前の部下はもういないんだぞ」


「もういない? お前の目は節穴か?」


 ヴァロンは背後にある扉付近まで走り、そこにあったレバーを下げる。

 するとどこからともなく音が鳴り響き、軽い振動が起きた。


「……何をしたんだ?」


「何をした? ただ貴様らの相手を用意しただけだ!」


「!?」


 俺たち立っていた前方辺り――広間の中央付近の床が口を開き、真四角の鉄格子がせせり上がって来る。

 中にはなんと、二匹のモンスターの姿があった。


「くくく……そいつらはBランクモンスターのミノタウロスだ!」


「Bランクモンスター……そんなのさすがにフェイトさんたちでも……」


「いいや。問題無いと思うぞ」


「え?」


 殺気に満ちた赤い瞳にギラリと怪しく光る牙。

 鋭い角に筋肉質の巨体。

 手には斧を持ち、そしてその瞳で殺人的な視線をこちらに向けている。

 

 なるほど。

 こいつの部下たちはこれを恐れていたのか……

 確かに、こんなのが相手だったら普通の人間が勝てるわけがない。

 普通の人間ならな・・・・・・・・


「おいおいおい。まだ余裕な顔をしているなぁ……もしかして、こいつらをただのBランクのモンスターとでも思っているのか?」


「え? 違うの? そもそもお前がさっきそう言ったんじゃないか」


「確かにBランクのモンスターだ……だがな! 俺にはこれがある!」


 ヴァロンが懐から何かを取り出す。

 奴の手の中にあるのは黒い球体。

 あれは……『マナの凝縮玉』。

 

 道具の材料として使用される物であるが……流通量は少ない。

 ランクはⅢで、その数の少なさから値段はバカ程高いと聞いている。

 俺も実物を見るのは今回が初めてだ。


「もしかして……それをモンスターに食わせるつもりか!?」


「そのもしかしてだ! 絶望しろ! そして俺に歯向かったことを後悔しながら死んで行け!」


 ヴァロンはミノタウロスに向かって二つの『マナの凝縮玉』を放り投げる。

 ミノタウロスはその『マナの凝縮玉』を拾い上げ、そして口に含む。


「ガァアアアアアアアア!!」


 膨れ上がる殺気と肉体。

 さっきまでと比べて筋肉量が三割ほど増したように思える。


 『マナの凝縮玉』は材料として使用される物ではあるが、それをモンスターが口にすると能力が強化されると耳にしている。

 真偽のほどは疑わしいものであったが……まさか本当だったとは。

 なんて面倒な。

 

 俺は身構えながら、気になったことを口にした。


「ミノタウロスが強くなったのまではいいとして……お前、こいつらをどうやって俺たちと戦わせるつもりだ? このまま逃げたら、こいつらと戦わなくても済むんだけど」


「なるほど。相手にせずに逃げるのも一手だな」


「ふ……ふふふ……逃げたところでこいつらにお前らを殺させてやる! この『服従の指輪』の力でな!」


 黒い宝石が取り付けられた指輪を付けて右手をかかげるヴァロン。


「さあミノタウロス! そいつらを八つ裂きにしてしまえ!」


「『服従の指輪』……また面倒な道具を……」


 『服従の指輪』とはランクⅢのアイテムで、その名の通りモンスターを服従させるという代物。

 そうか、あんな物を所持しているからあれだけ余裕な顔をしていたんだな。

 まさにあいつの切り札ってところか。


「で、本当に逃げるか、フェイト?」


「逃げるのもいいけど、逃げたら被害が広がりそうだよな」


「そうだな。被害を最小限に抑えるなら、ここで戦うしかないな」


「だな。じゃあ被害はあいつにだけこうむっていただくとするか」


 俺たちは武器を構え、ミノタウロスたちの動きを窺う。

 ミノタウロスは鉄格子から解放され、その爆発的な力を解放する。

 だが俺たちはその力に怯むことなく、ミノタウロスに向かって駆け出した。

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