第14話 ロンドロイド

 俺たちはダンジョンから東にある町、ロンドロイドにやって来ていた。

 そこまで栄えた町ではないが、しかしそれなりに大きな町。

 すでに夜となっていたのでそこの宿屋で部屋を取り、セリスが持つ【神器】について話をしていた。


「十ある【神器】が全て集まる時、聖魔の聖戦が始まる……そんな言い伝えがあったな」


「あったな。俺も聞いたことはあるよ。でも本当なのかな?」


「さあな。聖戦を経験した人間はもう生きていないのだから」


 聖戦――

 それはおよそ千年周期で行われる、世界の未来を決める戦いと言われている。

 【神器】には光と闇の属性があり、丁度五つずつに分かれるようだ。

 ちなみにセリスが所持しているのは光の炎を宿す【神器】。

 

 そして光側と闇側に別れ、戦いを行い、世界は勝利した側の望むべき姿に変貌すると聞いている。

 前回は闇の側が勝利を納め、世界にモンスターが現れた。

 なので現在の世界は、闇の者が勝利をした結果というわけだ。

 モンスターなんて望んでんじゃないよ。


 現段階でダンジョンを攻略した者は二名のはず。

 セリスと……俺の幼馴染だ。

 ちなみに幼馴染は闇の【神器】の所持者だ。

 

「…………」


 将来セリスと幼馴染が戦う……?

 そんな二人の姿は想像できないな。

 幼馴染は元気一杯って感じだけど、野心があるようには考えられない。

 セリスにしても、世界がどうとかそんなレベルの話には興味なさそうだし。

 まぁ、世界を救うなんてお題目があれば話は別かも知れないけれど。


「いずれ私も巻き込まれることになるのだろうか?」


「どうなんだろう。でもそれが運命だとするなら、逃れる手段は無いかもしれないな」


「私が【神器】を手に入れたのと同じように……か」


 セリスは兜をかぶったままなので感情は読み取れない。

 億劫そうにも取れるし、使命感を持っているようにも取れる。

 兜を外してくれたら分かりやすいんだけどな。


「あのさ、もう兜外してもいいだろ? もう町中だぞ」


「町中だとしても、危険が無いとは言い切れない」


「確かに言いきれない。そんなのはいつ何時だって言い切れない。なら寝ている間でもつけてるつもりか?」


「お望みならばつけておくよ」


「そんなもん望むか! 逆に今すぐに外してほしいぐらいだよ。ちゃんと顔を合わせて会話しようぜ」


「それは断る」


 断固外すつもりは無いようだ。

 そんなに外したくないのかよ……


「まぁ別に良いんだけどさ……とにかく、聖戦のことは今考えても仕方がないし置いておくとして……セリスの敵の、なんだっけ? アンポンタン?」


「アンボルタンだ。なんだその間抜けな名前は」


「似たようなものじゃないか。そんなクズ連中はアンポンタンで十分だ」


 自分の覚え間違いを誤魔化しておく。

 強引すぎるけどこれでいけるだろう。


「そのアンボルタンってのはどこにいるんだろうな? 少しは手がかりを掴めてるのか?」


「…………」


 セリスから怒りの気配を感じる。

 奴らのことを考えるだけで、感情を押さえられなくなるようだ。

 彼女の気持ちを察し、俺も若干の怒りを胸に宿す。


「ヴァイアント辺りで目撃したなんて話は聞いたことがある」


「ヴァイアントか……確かここから北の方角にある町だったな」


「ああ……しかし、もう奴らのところに向かうのか? 敵は弱くはない。それに数が多いんだぞ」


「数が多かろうが弱くなかろうが、そんなの関係ない。一刻も早く親たちの仇を取りたいだろ」


「それはそうだが……」


「なら決着は早めにつけようぜ。大丈夫だ。俺たちならきっとやれるさ」


 正直なところでは、早めに彼女に復讐心を手放してほしかった。

 黒い感情を抱き続けるのはやはり良くない。

 心が黒くなり、そして肉体や人生に影響が出て来てしまう。

 もうすでに影響が出ているのかもしれないが、極力早く、彼女を過去の出来事から解放してあげたい。

 その方が健全な日々を送れるはずだから。


「ってことで、身体を休めたら北に向かうことにしよう」


「分かった。そうしよう」


 セリスが【神器】を手にし、それを見上げる。

 家族のことを思い出しているのか。

 復讐のことを考えているのか。

 または別のことを思案しているのか。

 やっぱり兜を外してくれないと感情が読みにくい。 

 せめて二人で会話する時ぐらいは外してくれないかな。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 セリスとパーティを組んで初めての朝。

 天気は良好。

 窓から飛び込む朝日が眩しい。


 大きく伸びをし、身体をほぐす。

 そしてもう一度眠りにいざなわれそうになる。

 二度寝を促す悪魔の誘惑……

 理由が無かったら起きるのって中々難しいよね。

  

 別段、早起きをする理由は無いし、このまま寝てもいいんだけど……

 でも、買い物にも行きたいしな。


 武器も新調しておかないと。

 ランクⅠ程度の武器だけでなく、もう少し強い武器も欲しい。


 俺は気怠い体でベッドから飛び起き、そして隣の部屋で眠っているであろうセリスを起こしに行くことにした。

 どうせなら一緒に出かけた方が楽しいよな。

 うん。そうしよう。

 仲良く買い物に行くことにしよう。

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