第12話 【神器】

 ドラゴンを倒した後、他の特殊モンスターが出現することは無かった。

 ただ静寂が訪れる。

 ドラゴンと戦った場所は何も無い広い空間であったが――

 突如として、壁に巨大な扉が出現する。


「扉……これ、罠じゃないの?」


「いや、大丈夫だ。この中に【神器】が眠っているはずだ。先に進もう」


 全てを理解している。

 セリスはそんな様子だった。


「俺が開けるよ」


 俺は扉を押す。

 だがビクともしない。

 開けると言った手前、ここで引くわけにはいかない。

 開けられなかったら格好悪いし、開いてお願い。


 全力で押してやるが、全く動かない。

 いや、これ開けれる人いるの?

 そう思えるぐらい扉は開かなかった。

 まるで頑固過ぎる親父のよう。

 何が何でも開く気配がない。


「私がやろう」


「え――」


 セリスが扉に触れると――扉はゆっくりと口を開く。

 彼女は特別力を入れている様子は無い。

 扉が意思を持っているかのように、自然と口を開いていく。

 

「……必死になっていた自分が恥ずかしい」


「お前を笑う奴なんていないさ。私以外はな」


「いるじゃないか! 一人! 目の前に」


「冗談だよ。私は人をバカにするのは好きじゃないからな」


 なら良しとしよう。

 うん。セリスが人を笑わない人間で良かった。


 扉の先は神秘的な広場となっており、足を踏み入れると頭がフワフワする。

 夢心地のような、でも意思はしっかりしている、なんとも不思議な場所だった。

 光が満ちた……いや、光以外は存在しない。

 ただ白い世界がそこにあり、その中心に紅い炎が浮かんでいる。


「あれが【神器】か……」


「ああ……声が聞こえる・・・・・。【神器】の声が聞こえるよ」


「……やっぱり、セリスが【神器】に選ばれたようだな」


「私が【神器】に?」


 セリスは【神器】を眺めたまま俺に返事をしている。


「ここが最下層だって分かってたり、【神器】の声が聞こえたりさ……それって、【神器】が持ち主にセリスを選んだからだと思うんだ。いや、最初から選ばれてたと言った方が正しいかも知れない。セリス自身は【神器】を求めていなかったけれど、でも結果的にこうしてここにいる。きっとこれは運命だったんだ」


「運命……そうか。【神器】を所持するのが私の運命なのか」


 これ以上ないほどに納得するセリス。

 すると目の前に浮いていた炎がゆらりと動き消えたかと思うと――セリスの持っていた剣に宿り始めた。


「?」


 炎は剣を包み込んでいき、そして熱く燃え上がる。

 しかしセリスは剣を手放すことはない。

 熱くないの、それ?


 炎によって剣は徐々に姿を変貌させていく。

 変哲もなかった直剣が赤い刀身となり、鍔にはルビーのような宝石がはめ込まれている。

 大きさにも変化があり、バスタードソードに分類されるであろう大型の剣になっていた。


「これが【神器】か……なるほど。私と共に成長するようだな」


「持ち主と共に成長する剣か」


「まだ引き出せる力は限られているようだが、いずれ使いこなせるようになってみせるよ」


「仲間が【神器】持ちなんて、期待しかないな」


「お前にも期待してるよ」


 お互いが期待し合い、尊重し合い、尊敬し合う。

 真の仲間とはそういうものだろう。

 本当にいい仲間に出逢えたな。

 なんて、【神器】を手にするセリスを見て俺は感慨深い気持ちとなっていた。


「――!?」


 セリスが【神器】を手に入れると――周囲の光が消え去り、外と同じ造りの空間が姿を現す。

 そして大きな地震が発生し、ダンジョン全体が揺れているようだった。


「おいおい、地震かよ!」


「いや……私が【神器】入手したことにより、ダンジョンが役目を終え、消滅しようとしている」


「なるほど……って、どうやって脱出するんだよ!? このままじゃ生き埋めに――」


 セリスが俺の顔を両手で挟み込み、そして強引に背後に振り返させる。

 なんと俺の後ろ側に、光の柱が出現しているではないか。

 何あれ?


「あの中に入れば外に出られるはずだ」


「なんでそんなこと知ってるんだよ?」


「【神器】が教えてくれた。急ぐぞ」


 【神器】って結構お喋りなの?

 できたら俺も話がしてみたいな。


 でもそれはここを出てからにしよう。

 早くしないと生き埋めになってしまう。


 俺は大急ぎで光の柱へと走る。

 セリスと同時に光の中へと入り――気が付くと俺たちはダンジョンの外にいた。


「どうなってるんだよ……」


 俺たち以外にもダンジョンを攻略していた者たちが多数いたようで、次々と外へと飛び出して来る。

 皆の前にも光が出現したのか、何も無い空間から姿を現す冒険者たちもいた。


「おい! ダンジョンが消えるぞ!」


 ダンジョンは森の奥にあり、木々に囲まれた巨大な迷宮の姿が崩れ落ちていく。

 地面の奥へと飲み込まれて行き、そしてダンジョンは跡形もなく消え去ってしまう。


「無くなった……ってことは、誰かが【神器】を手に入れたってことか!?」


「誰だ? 誰が【神器】を!?」


 大騒ぎをする冒険者たち。

 

 俺はセリスと顔を合わせ、そして首を縦に振る。

 【神器】を入手したなんてバレたらどうなることやら……

 俺たちはこっそりと足音を殺して動く盗人のように、その場から離れる。

 なんにも悪いことはしてないんですけどね。


 かくして、俺たちは【神器】を手に入れたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る