第11話 二つの頭を持つドラゴン②
アイテムにはランクという物がある。
鉄の剣はランクⅠ。
これは一番低いランクで、通常手に入るアイテムの中で一番高いランクがⅢと言われている。
ランクⅣのアイテムは『伝説級』と呼ばれており、それ一つで戦況を変えるほどの力を秘めた物と定義されている。
そして【神器】など常識から外れた能力を有しているアイテムは、ランクVと位置付けれているのだ。
目の前にいるドラゴンと戦うにはランクⅣ相当の武器が必要となるだろう。
だが俺の【空間収納】の中にはそんな武器は存在しない。
あれば始めから使ってるって話だよ。
中にある物で最上位の道具は……ランクⅢの『イフリートの角』。
これは炎の力を内包した道具で、魔術を扱えない者でも炎を操作することができるという代物だ。
赤黒く輝く角を手に握り、それを見下ろす。
「…………」
だがこれではあのドラゴンを倒すことは不可能かも知れない。
魔力を【付与】で強化しているが、しかしそれでも倒せるかどうか……
ここで賭けに出るのも嫌いではないが――他に手が無いわけではない。
そう。
俺には特殊なスキルがいくつかあるのだから。
倒せない可能性があるのなら、出来る限りその可能性を潰してやればいいだけの話だ。
まずは【融合】だ。
ただ道具を使用するよりも、もっと手軽に使用できるように改良しよう。
また剣と【融合】してもいいが……
これからのことも考えて、戦いの幅を広げたい。
接近戦もいいけど、セリスがいるから遠距離でフォローもできるように。
となれば、矢あたりがいいか。
俺は矢を【空間収納】から引きずり出し、早速『イフリートの角』と【融合】をさせる。
矢の先端が赤黒くなり、硬質の物に変化した。
これは『イフリートの矢』と命名しよう。
さらにこれに対して【付与】を使用。
【付与】にはある設定ができる。
それは俺だけが扱えるという【専用化】というものだ。
これは俺以外の人が使用するとあらゆる効果を発揮できなくなるというものであるが……俺が扱う分には、通常よりも高い性能を誇るようになる。
自分が身に着けている物に【付与】している分は全て【専用化】を施し済み。
この力も防御力も、【専用化】のおかげという部分もある。
【付与の書】を取り出し、『イフリートの矢』に【火力強化】の【付与】をすると同時に【専用化】も設定。
これで『
だが威力の上昇は計り知れない。
俺ができる最大限の強化。
これならあのドラゴンの皮膚さえも突破できるはずだ。
セリスは鉄の剣一本でドラゴンと戦い続けていた。
攻撃は当然通用せず、防戦一方。
だが戦いはこれで終わる。
これで勝てないならもうあいつを倒す術はない。
勝つにしても負けるにしても、これで終わりというわけだ。
「セリス! 離れろ!」
「!」
俺の声にセリスが反応し、飛び上がりドラゴンの顔を踏み台にして奴から距離を取る。
『イフリートの矢』を左手に持ち【複製】。
『木の弓』を手に持ち、【複製】した『イフリートの矢』を引き絞る。
「敵を屠れ――『イフリートの矢』!!」
空気を切り裂き、『イフリートの矢』が飛翔する。
矢はドラゴン目掛けて、閃光のように宙を駆けていく。
通用するか……俺は一握りの不安を抱きながら行く末を見守る。
カーンという音と共にドラゴンの額に突き刺さる矢。
瞬間――大炎上。
爆炎を巻き起こり、ドラゴンが炎に飲み込まれていく。
「グガァアアアア……」
「…………」
凄まじい炎に包み込まれたドラゴンの肉体は、徐々に溶けはじめていく。
まるで熱した鉄のように、ドロドロと崩れていく体。
その光景をセリスが唖然と眺めていた。
ドラゴンの肉体が完全に溶け切ってしまい、床と壁を黒焦げにして炎は消滅する。
俺は敵を倒せたことに、安堵のため息をついた。
「いやー、勝てて良かった。今ので無理なら戦略的徹底をせざるを得なかったからな」
「…………」
「ん? どうしたんだ?」
「いや、お前……凄すぎだろ……あの化け物を一撃で倒してしまうなんて……どんな武器を使ったんだ?」
セリスは驚愕し過ぎてその場に立ち尽くしたまま俺を見つめている。
正直、俺もあの威力には少々驚きはしたけれど……それでも驚きすぎじゃない?
俺はセリスのもとに駆け寄り、そして力の説明をした。
興味深く、うんうん頷きながら聞くセリス。
「なるほどな……それであれだけの力を発揮できたというわけか」
「そういうこと」
「そうか……後、話を聞いて気になったことがあるんだが……」
「気になること? なんだよ?」
一体何が気になったというのだ?
全部が気になったなんて言わないでね。
全部を一から説明するのも大変だから。
「その【付与】を、何故あの『
「……誰にでも失敗という物はある。それは世界中で起きる、当たり前の現象なのさ」
「忘れてたのか……強いけど、やはり面白い奴だな、お前は」
いや、完全に忘れてました!
確かに【付与】してたら威力も上昇して、『
忘れてたこと反省はしています。はい。
とまぁこうして、俺たちはダンジョンの最奥に出現したドラゴンを倒したのであった。
もう他に強いモンスターは現れないだろうな。
さすがにもう勘弁してくれよ。
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