第16話 帰郷と使命と

「本当に? 本当に君が姫田紅雄?」


 とりあえず、すぐに殺されることはなかった。

 ライカに紅雄の正体が分かり、とりあえず状況説明のために集会場に通され、ビオ村長、ミントを交えて、紅雄とライカは向き合う。


「はい、さっき説明した通りです」


 ライカに紅雄のこの世界に来てからの経緯を伝える、メイデン村で眠り続けていたこと、そして、この村で優しくされたこと、それからゴブリンの襲撃から逃がすためにこの村を出ていたこと。

 最後に、自分の能力のことを。


「そっか、君が姫田紅雄か。思ってた人間と違ったな。もっと悪辣なやつかと、能力で村中の人間を洗脳して、奴隷のようにこき使っているものと。なんか巨石でできた神殿みたいなのを作らせてふんぞり返って女を侍らす、そんな男を想像して……、ああごめん、今はどうでも良かったね」


 一人で話し始めるライカにジト目を向ける一同。


「それで、俺の能力はしょぼいから俺を殺す価値はないと思うんです。この村でずっと大人しくしてますから、ゴブリンの軍団を倒して帰ってくれませんか?」


 紅雄が頼み込む。


「そうだね。ゴブリンの軍団は倒すよ。可哀そうだしね。要塞作ったり、訓練したり大変だったでしょう? なんかその話を聞くと疑ってたのが悪く感じてきちゃった。余計な心配をかけた罪滅ぼしに、ゴブリンの千万の軍勢は私が倒すよ」

「一万、ゴブリンの数は一万です」


 話全然聞いてねぇな、この女。


「そんなに少なかったっけ? じゃあ、楽勝だ。今から一時間もあれば全滅させられるよ。私は雷光姫ライトニングプリンセスだからね。もう今からいって全滅させてこようかな。じゃあ、行ってくるわ」


 ライカは飛びあがって、準備運動のジャンプをし、体から稲妻が走り始める。

 そして、バチッと閃光が走ったと思ったら、ライカはいなくなってしまった。


「おぉ……流石は雷光姫ライトニングプリンセス様……」「良かった、本当に良かった」「俺たち助かったんだ」


 本当にコンビニ行ってくる感覚で一軍隊を全滅させに行ってしまった。


「あ……そうそう、その前に」


 と、再び稲妻が室内に走り、ライカが戻ってきた。



「———やっぱり、君は殺しておかなきゃいけないと思うんだ」



 突然、ライカは手袋を外して紅雄の胸に叩きつけた。


「は?」


 い、今そんな話の流れじゃなかっただろ。

 ゴブリンを倒して、とりあえず村の脅威は去った、俺の話はその後かな、と思っていた紅雄にとって晴天の霹靂だった。


「ご、ゴブリンの軍勢は……?」

「後で倒すよ。その前に君だ。姫田紅雄。やっぱり『異能騎士団アルタクルセイダーズ』の一人である君は早めに始末した方がいいと思う。私がここに来た一番の目的がそれだしね」

「だから、俺はチート能力は持っているけど、『右手で触れたものと、左手で触れたものを入れ替える能力』なだけで! 『異能騎士団アルタクルセイダーズ』の奴らは知ってるけど、俺は関係ない!」

「でも、能力は能力だ。神から与えられたね。それに、まだこの世界で誰も『異能騎士団アルタクルセイダーズ』を討ち取った人間はいないんだ。誰も勝っていないからこそ、『異能騎士団アルタクルセイダーズ』には絶対に勝つことができないという絶望が国中に蔓延している。それを私は払しょくしたいと思っている」

「だから、生贄になれと?」


 チッチッとライカは指を振った。


「生贄というほどじゃない、決闘だからね。全力で立ち向かってくれよ。『異能騎士団アルタクルセイダーズ』と戦って、打ち破った。初めての事例が気づき上げられれば、国に希望が生まれる。『異能騎士団アルタクルセイダーズ』は絶対に倒すことができない相手じゃない。頑張れば倒すことができる相手なのだと」

「でも、あんたが今からやろうとしていることは弱い者いじめだ」


 こっちは手に持ったものを入れ替える能力、あっちは雷と同じ速度で移動できる能力。そんなもの勝ち目がない。

 何とか、勝負をせずに説得しようとするが、ライカは聞く耳持たずに肩をすくめる。


「いじめか、そう言われると良心が痛む」

「じゃあ……」

「だけど、良心より大義だ。私はライカ・Gギャレック・ストレリチア。守護十傑聖騎士ガーディアンパラディンの一人として、君を殺す」


 ライカは笑った。

 殺すと宣言した相手に対して笑顔を浮かべ、剣を抜き、切っ先を紅雄の首筋に向ける。その眼は決して笑っていなかった。

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