第34話 狂い始めた歯車
誰かがアキラを見つけている線は低い、アキラが落ちたのは渓谷の間に流れる川だったからだ、余程執念深く見張っていないと見つけられないはずだ。
全域を見張っているというのは実際現実的ではなく川というのは抜け穴の一つだっただろう。
レギア跡地を警備しているのは帝国兵だ。
「......」
【黒装隊】は既に私を諦めて去った、彼らは禁忌区域まで入る勇気はなかった、そこまでの思いはなかった。
「ここから」
実際はまだレギア跡地に本格的に入っている訳ではない。
古びた要塞の間に魔石が組み込まれた門がありこれが安全に行ける数少ないルートであり本格的にレギア跡地に続く道。
ここ以外にも道はあるのだがトラップ魔法がそこかしこに仕掛けられており、踏めば地雷や召喚魔法が発動し侵入者を排除する仕組みがある、時間をかければどうにかるとはいえ今は得策ではない。
門は決められた人間の魔力でないと開かない。
「......よし」
とはいえ力づくでどうとでもなる、レギア跡地に力づくで侵入する馬鹿は普通はいないから警備も手ぬるいのは知っている。
今からする事、本当に取り返しのつかない事だけど。
「私は――」
そう力がなければ為せなかった事だって、今の私になら出来る。
こういう時の為に力を得て来たの。
『へべ姉』
お姉ちゃん、頑張るからね。
「――我が肉体に流れる魔力よ、収束せよ」
魔力を圧縮していく。
杖を門のある方角へと向け。
「我が眼前に立つは阻害するモノ、阻むモノ、そして我が道を閉ざさんとするモノ」
周囲に土煙が舞い、そして魔力の渦は私の周りにも渦巻はじめる。
「この侮辱、破壊を以て償うべし」
限界まで圧縮し――
「――『クリテオン』」
極光の玉は門に向かい撃ち込まれる――
◆◇◆◇
「アキラぁ?おんぶしてはくれませんかねぇ?」
「甘えるな、太るぞ?」
「ひでぇな、乙女に言う言葉じゃないわ全く」
しかし本当に進んでいるのか不安になってきた。
「大体俺が先頭で草を刈ってるんだぞ、俺の方が疲れてんだよッ」
「はいはい、感謝感謝」
「おのれ......」
現状魔物の類は幸い見ていない、とはいえ木の実しか食べ物を食べていないのはきつい。
「あぁ腹減った......」
「あ、言った、言いやがったッウチだって減ってるのに言わなかったんだぞッ」
「ッチ、この小うるさい乙女の口も減ってほしい......」
「ひどいッマジで!」
愚痴を言いながら進んでいく。
「......シメトは結局戦う術は今ないのか?」
「......ないねぇ、2体しか契約してないから、他の基礎魔法は慣れてない」
「もっと契約しておいてくれよ......」
「簡単に言ってくれるよ、息の合う奴に会うのだって難しいのに契約とか簡単にしてくれないんだよ」
俺は剣が壊れてるから魔物が来たらヤバいな、短刀なんて使った事ないし。
素の俺は『ファイアボール』とか『フレア』くらいしか使えないし、どうしたもんか。
「魔力切れしたらどうしようか」
へベルナに貰った魔石以上魔水晶以下、へベルナ水晶とでも呼ぼうか、へベルナ水晶を取り出す。
「なにそれ?魔石......とは違うけど」
「へベルナが魔水晶を作ろうとして出来た物だ、それを貰った」
「へベルナ......あーあいつか、ウチに攻撃してきた」
まぁ逃げる俺を追おうとしてへベルナに妨害されたんだろう。
「......はぁ、リアーズにポリュド大丈夫かな」
「そういえばあいつらとお前ってどういう関係?」
「関係かぁ、仲間とかじゃないんだけどまぁ腐れ縁みたいなものかな」
「腐れ縁で盗賊団になるのかよ」
「なるんだね、それがさ......アキラはさ、北には行った事ある?」
シメトは聞いて来た、北というとコゴートと言われる国がある事しか知らない。
「ウチはコゴートの生まれでね、あそこは......とにかく貧しい土地柄なんだ」
シメトは話す。
「ウチの父さんが言うには昔は魔石とか取れて裕福だったんだと、でも今はじゃあ今日を生きるのにも苦労してる」
それで長女だったシメトは家族を養うためにアルカディアに行ったは良かったが上手くいかず似た境遇のリアーズとポリュドと出会い盗賊行為を行って来た。
「そんな事してたらさ、あんたを襲った奴の目に留まったのか、その変な武器を渡されたんだよ」
シメトは俺の手に持つ赤黒い短刀を指さす。
「......それで調子に乗ってこのザマか」
「このザマ、はははは」
シメトは笑う。
「あの野郎が人攫いに関係してたんだろうな、俺の剣も弁償してもらうぞ......」
「......ウチらの界隈でも人攫いについての噂は聞いた事あったんだよ」
「噂って、そんな有名?」
「誘拐に関与してる組織が結構ヤバいみたいな」
「どういう組織なんだ?」
「詳しくは何とも、ただ危険なアイテムとか魔法とかを取り扱っているって話でさ、もしかしたらウチらを襲ったあいつらは関係者だったのかも......」
組織の名前は【灰の祭壇】の組織規模は不明、ただ活動する理由は一貫している。
「行動目的は共通しているな、あいつらは歴史的遺産を収集している」
だから一部の者はどうにか【灰の祭壇】と接触して歴史的な遺産を渡す見返りとして金品やら希少なアイテムやらを貰っているのだという。
「あいつらがどうしてそんなもの収集しているかはさっぱりだ、コレクター気質なのかどうなのか......」
「......その話だと人攫いの理由にはならなくない?」
「こっちだって知らないって、そういう噂もあるってだけ」
【灰の祭壇】かへベルナの友達のパーテの件もあるし少し気になるな。
■
ガサッ
「ん?」
ふと茂みから何かが擦れる音が聞こえた気がした。
「なんだ?今の」
「いやいや前に言ったろここに入るのはヤバいんだからいるわけないってさ」
シメトがそういうので気にせずに進んでいくが......。
「......」
視線を感じる。
ガサガサッ
「「!?」」
今回はシメトも気づいたようで俺を見て口をあんぐりと開けている。
「なんだ、アキラちょっと見て来て」
俺の背中に隠れながらグイグイと押していく。
「ちょ、ちょっと待てって......」
「怖気づくなッ男だろ!」
「あぁもうわかったって......くそ」
渋々と俺は短刀を持ち音のした方に進む。
「......誰かいるか?」
返事は返ってこない。
「......別に何もしないぞー」
しかし反応はない、と思っていたら――
「ふふ――見つかっちゃった」
髪は光り輝くレモンイエロー少し短めで毛先がウェーブかかった少女。
「――え」
しかしその背丈は手の平に収まるほどの大きさで白い服、そしてエルフの様に耳は長く背中には蝶のような白亜の羽。
「仕方ないかしら、仕方ないわよね」
矮小な存在でありながら赤い霧など意に介さない底知れぬ何かを感じる。
「よう......せい?」
俺が呟くと。
「まぁご存じでいらっしゃるのね、きょうかいの人じゃないのに」
「うお......」
ふわりとこちらに飛んでくる、警戒していたにも関わらず容易に顔の前に来た。
「あなた様のお名前は?」
「アキラ、アキラ=フジワラ......」
「......ふーん......アキラ、フジワラ......変なお名前ね?」
「悪かったな、変なお名前でさ!」
そして今度はシメトに近づいていく。
シメトはかなり怯えていて俺の袖を掴んで妖精が近づくと。
「ひ......」
今までにない怖がり方をしていた。
「......お名前は?」
「し......シメト=アポイル......」
「そう、シメトと言うのね」
妖精は再度距離を取り始めると今度は優雅にカーテシーをして挨拶をし始める。
「わたくしはディア、ディア=キルクナン......以後お見知りおきを」
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