第5話 初めまして、旧友


「何をしているのですかッ!」

「「――っ!?」」



 少女の声が聞こえてきた、思わず声の方向に目を向ける。


「だ、れだ......」


 月明かりに照らされるのは先が垂れた大きな紫色の三角帽子と紫色のローブをした、所謂魔女の恰好をした少女......へベルナであるへベルナは大きな杖をもって近づいてくる。


「......」


 あからさまに動揺している男、へベルナは地面を杖でカツンッと大きく叩く、その堂々とした凛々しい姿。


「へベルナっ!?なぜここに......」

 男は驚きながらしゃべる、知り合いなのだろうか。


「近くに用事がありましてね、そしたら......」

「う......」


 俺をチラリと見るが、見ないでほしい......逃げようとした挙句ボコボコにされているなんて恥ずかしくてしょうがない。


「ッチ、とことん運がない!『ファイアボール』」

 男は右手を横に振り払うと同時に炎の玉を横に並べ――

「――ッ」

 炎の玉を一斉にへベルナに飛ばす――


 へベルナは空に向けて杖を突きだし。

「『サンダーボルト』」

 雷を放つとファイアボールの列に青い雷が落雷して相殺していく。


「ッまだだ『ファイアボール』」

 今度は両手の炎の玉を貯め、同時に投げる。


 グルグルと回りながらへベルナに襲い掛かるが。

「『黒薔薇くろばら』」

 杖の先から現れた二つの黒い荊は二つの炎を相殺して激しい爆発を巻き起こす。


 土煙が舞う中、男の方は再度を炎の玉を並べようとするが――

「ッ『ファイ――「『サンダーボルト』」

 しかし、間に合わずに雷を受けてしまう。


「くっ......」


 しかし男は倒れない、さすがは元冒険者といったところか......


「基礎魔法であるファイアボールをあそこまで......流石の練度、お見事です」


 へベルナは賞賛を送っている、これは心からの賞賛なのだろうが――


「――ッどいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって!」

 男は短刀を手に持ち、へベルナに投擲しようとする――


 危ない――


「――ッ!」


 奴の片足を力一杯に引っ張りどうにか体制を崩させる。

「――なっ!?」

「――『サンダーボルト』」


 体制を崩した隙を突きへベルナは杖の先から青い電撃を当てる。


「......終わりですね......」


 へベルナが近づいてくる。

「......大丈夫ですか?」

「へへっ全然――」


 あぁ、安心したからか、意識が飛んでいく、結局捕まる羽目になったが、仕方ない。


「......あの――ちょっ――、――!?」


 俺の意識はここで途切れた。




 ◆◇◆◇




「?」


 窓からの日差しが俺を照らす。


「んー確か助けられて......」


 ベッドの上で寝ていた、久しぶりの布団での睡眠だった。


「ここは......どこだ?」


 辺りを見渡すが、清潔な部屋だという印象、綺麗なツボやらがある事から富裕層の家であることは予想がついた。


 誰かが部屋に入ってくる。


「起きましたか」


 見慣れた魔女姿のへベルナが部屋に入ってくる。


「助けてくれてありがとう」

「気にしないでいいです、あの場面に出くわしたら誰でもそうします」

「そうか.....ここは?」

「知り合いの別荘です、さすがに異性を私の家に連れていくわけにはいかないので」


 知り合いの別荘......へベルナはもしかして大物なのだろうか?

 へベルナが話しているともう一人部屋に入ってくる。


「元気そうでよかった」

「――」


 輝くようなライトイエロー色の髪と碧眼の青年、白い鎧には金色のラインが入っており、如何にもな騎士......


「どうしたんだ?驚いて......」

「えぇと、アキラさん?この人はですね、ルキウスと言います、部屋を貸してくれた人です」


 豊穣の森で戦った騎士だ見間違えるはずがない。俺を殺そうとした男。


「......ありがとうルキウス、こんな怪しい奴に部屋を貸してくれて......」


 ただ、今回はどこからどう見ても怪しい俺に部屋を貸してくれたのだ、感謝しかない。過去のアレは仕方のない事、事故みたいなモノだ。


「すみません、二人で話しても?」

「構わない、僕は訓練場にいるから何かあったら呼んでくれ」


 ルキウスはそう言って部屋から出て俺とへベルナと二人だけになった。


 俺はベッドに座り、へベルナは椅子に座りお互い斜めに向かい合い話す。


「......この後どうなるんだ?」

「......ふぅむ、本来であればこのまま捕まえてしまおう......と考えてました」

「?しまおう、と?」

「......」


 へベルナは考え込んでいる、何だろうか。


「私はあなたを見つけた事をまだ他の人に知らせていません」

「......え?」


 なぜ言わなかったのだろう、俺は罪人だ。彼女にとってはそうだろう。


「どうしてだ?俺はアンタと親しくない、隠蔽する必要なんてないはず」

「......私があなたと別れた後、立て続けに戦闘が起きました」


 あの男の事か。


「その後脱出しましたがその後の事です、採掘場にいた冒険者が多く被害にあいました、違法採掘者なども数に含めればもっと多いでしょう、あの怪物やあの男が何かしたのか......」


 俺にはかけられている容疑はそっちか、もう魔石云々の話ではなくなってるのか。



「私があなたの事をこのまま報告したら尋問されます......確実に」

「......」

「あなたには無実を証明する事はできない、魔石盗掘というのは、実は嘘であり、何かしらの魔法を使ったとか、言いがかりをつけられるかもしれません」


 俺に身寄りもないし仮に間違ってても問題はないのか。


「......アキラさん、私はあなたが悪人だとは思っていません」


 赤い瞳で真剣にじっと見つめる。


「ですので......あなたには汚名返上をしてもらいます」

「汚名返上......」

「そうです、あなたもまた一斉摘発に失敗した冒険者の一人」


 ん?


「隠蔽?違いますよ、あなたは私の旧友で採掘場の一斉摘発に私の身を案じてたった一人単身で挑んでしまったちょっとおバカで友達思いな冒険者アキラ......」

「フジワラ」

「そう、ちょっとおバカで友達思いな冒険者アキラ=フジワラ。しかし作戦は失敗してしまいました、だから次は失敗出来ません、アキラ=フジワラは今度こそ失敗するわけにはいかないのです!」


 へベルナは上を向いて、静かに笑う、こちらを見る様は何処かドヤ顔を彷彿とさせる。


 恐らくは俺が採掘場にいた理由はへベルナとの旧友で、友を思って勝手に行動したからと、そうすることで......俺を守ろうとしてくれているのか。バカは余計だが。


「良いのか?俺、クソ雑魚だぞ、お前の実力と不相応だろ、絶対」

「......鍛え上げます」


 鍛え上げるって......。


「俺が強くならなかったら?魔法とかてんでダメだぞ、学がないっていうか......」

「いえ、強くなりますよ、というかさせます......」

「すごい自信......」


 なぜここまでしてくれるんだ?正直優しいという言葉だけでは説明がつかない。


「なんでそこまでしてくれる?メリットがない気が......」


 へベルナは困ったように考える。

「はぁ......私は主犯者の関係者の可能性がある敵を前にして逃亡してしまいましてね、周りから白い目で見られているのですよ、そして今の設定どおりに行くと、私の評価はさらに下がります、旧友の勝手な行動を抑えきれずに、挙句逃げられてしまった訳ですから」


 敵前逃亡と拘束失敗か......確かにな。


「私としては名誉挽回する機会が必要と考えておりまして、あの、ギルド所属の経験はありますか?」

「いや、ないけど」

「よかった、つまりあなたは無名、そんなあなたを強くして、犯人を捕まえられれば、素晴らしい原石を見つけた私は魔導士として再評価を受けられるでしょう、もちろんあなたも評価されますし、一石二鳥です」

「つまり、俺を利用すると?」

「言い方を変えれば、そうとも言えるかもしれませんね」

「......俺で名誉挽回出来るといいな」

「安心してくださいよ......させますから」


 怖。


「それに......もう後悔はしたくありませんから......」

「後悔?」

「......そうだ、あと、あなたが魔石の盗掘未遂なのは事実ですので、アキラさんは素行にも気を付けてくださいね」

「えぇ......」


 完全に犯罪者扱い、いや実際やらかしてるから反論できない。


「だったらさ、さん付けはおかしくないか?友達なのに、さん付けはおかしいとか周りに言われるぞ?」

「それは......そうですね、ではアキラさ......アキラ、しばらくの間ここで休んでいてください、ルキウスには頼んであります、私はやることがありますので」


 へベルナはヨイショと立ち上がり伸びをする。


「アキラ、また会いましょう――」

「あぁ、最後に一つ聞いても?」


 これだけは聞いておきたかった。


「名前を聞いても、いいか?」


 へベルナは不思議そうな顔を一瞬して、笑顔に戻る。


「えぇもちろん、へベルナ=マギアフィリアです」

「俺はフジ......アキラ=フジワラよろしく」

「アキラ=フジワラ......ですね、よろしくお願いします、アキラ」


 へベルナは笑顔で握手を求めたので握手を返す、異世界に来てから初めての握手。

 中高生くらいの手の大きさだ、俺より小さい――


「......ちなみに私は27歳ですよ?」

「――は!?」

「訳あって、15歳の時から成長していませんから」


 さらっととんでもない事を言われた。俺より年上だったのか......


「ではアキラ、また明日」

「あっあぁ、また明日」

 完全に驚き顔に慣れているな、俺とは対照的に自然に挨拶してきやがった。


 だけど、ようやく異世界でも知り合いと言える存在が出来た、まだわからない事だらけで不安もあるが、きっとうまくいくと信じて――


 異世界での初めてのベッドで睡眠を満喫したい、襲われる心配のない心からの休息を取るとしよう。


 ■


 目を覚ますともう夕暮れ時、今日の俺は完全にニートだな......。


「へベルナに休めと言われたから仕方ない」


 いままで生きた心地がしなかったし、橋の下か森でしか寝てなかったから、疲れなんて取れてなかったかもな......


「......」


 コンコンッ


 ドアをノックする音が聞こえる。


「......どうぞ」

「起きましたか、お体の調子は?」

「まだ痛いけど、大丈夫かな」


 メイドが俺を見るなり話しをかけてきた、どうやら今日の夕食は食べられそうかを聞きたかったらしい。


 もちろん食べる、いや、食べたい!


「畏まりました、いつ召し上がりますか?」

「あぁ、19時で」

「わかりました、19時にまた参りますので、何かありましたら、そのベルでお呼びください」


 ベル、ベッド横にある金色のやつか、そして19時......いまは17時過ぎか。


 勘だが俺には御粥のようなモノを出されるだろう、背中から腹に短刀をブッ刺されたばっかだ仕方ない。


 俺があれこれ考えてたらまたノック音が聞こえる。


「入っても?」


 この声はルキウスだ。


「どうぞ!」

「起きたと聞いて......へベルナとは友達だったんだな」

「――そうだな......」


 へベルナと話し合って設定を考えておかないと......。


「そんなへベルナの事で少し話しておきたい事がね」

「話しておきたい事?」

「そんな畏まらなくていいよ、知っていて欲しいだけだ」


 知っていて欲しい、何だろうか?


「へベルナがここに君を連れてきた時の状況についてだ――」


 昨日この別荘ではある会議が行われていた、会議は終わりその帰り道とある少年が

 へベルナに助けを求めてきたという、事の詳細を聞いたへベルナは急ぎ、

 現場へ向かい俺を助けた。


「その少年は身寄りがいなくてね、飢えでついには盗みをしてしまったようだ」

「......」


 その後へベルナは俺の足先を引きずりながら背負いこの別荘まで歩いて来たらしい。


「夜だったとはいえ、誰にも見られるわけにはいかなかった君を、わざわざ背負って運んでくれたんだよへベルナは......その事は知っておいて欲しかった」


 そうか、彼女はそこまでのリスクを冒してまで俺を助けてくれたのか。


「後、少年は君に感謝していたぞ」

 少年......

「君が助けた少年の事だよ、助けてくれてありがとうって言っていた」

「感謝?俺が?」


 俺は感謝なんてされる事をしていない、感謝されるべきなのはへベルナ、彼女だ。

 彼女があの男を倒した、俺はボコボコにされて死にかけてただけの男だ。


「俺よりへベルナに言うべきだろ?俺は何もできなかった」

「......話を聞く限り、君が助けてくれたと言っていたがね」

「助けただなんて、おこがましい......ただイキってただけだぜ」


 助けてなんていない、少年が助かったのはへベルナが来たからだ、仮にあそこに

 へベルナが来なければ、俺は死んで、その後に少年も無事ではすまなかっただろう。


「......そうか......」

「そうだよ......」

「......じゃあ、この話題はこれで終わりだ!それよりも君の今日の夕食は御粥だ」

「やっぱり(やっぱり)」


 やべ、声が出ちゃった。


「安心してくれ、ここの料理人の腕はピカイチだ、御粥だって最高の物になるはず」

「別に期待してなかったわけじゃないんだが......」

「だと嬉しいな、じゃあ、僕は自分の部屋に戻るから、安静にしているんだぞ?」

「わかってるよ」


 ルキウスはそう言って出て行った。


「......」


 ルキウスも俺を匿ってくれたんだよな、へベルナとの関係は運んできた時

 には当然何も知らなかったはずなのに......


「あぁ、全く、俺は運が悪いんだか、良いんだか......」



 俺はそんな厚意に、思いに、きっちり答えないといけないよな

 へベルナ=マギアフィリア、俺は一生懸命にお前が考えた設定を演じて見せる。


 この世界に来て早々事件に巻き込まれたが、どうにかして生き延びてやる。


 そして、俺を庇った所為で誰も大変な目に遭わせないように――



 はじめまして、旧友!




 序章 無い無い尽くしの異世界生活編 終

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る