第4話 逃走


 魔石採掘場で大量の意識不明者が出る前にへベルナはザイルドと一緒に脱出していた。


 しかし外では戦闘が発生しており、責任者であったのは若くしてギルドマスターに上り詰めた【赤の壁レッドウォール】のギルドマスター・ネイロスはある選択を迫られていた。


「ネイロスさん、採掘場内部でも予想外の戦闘が起きたとへベルナから報告がありました、内部に向かうチームを選ぶべきかと......」

赤の壁レッドウォール】所属のへベルナからの情報である。


 これ以上戦闘が長引けば、増援を待っているチームが危険だ。


赤の壁レッドウォール】№2であるアーヴィはその事を報告していた

「幸い、ここの敵は数だけ、内部の存在の方を危険視した方が良いかもしれない......」

 しかし、彼の勘はこの数だけの襲撃を怪しいと感じていた、本当に中にチームを送っていいのだろうか、中だって安全なわけではないのに。

「へベルナの判断か......」

「へベルナだけではなく、俺もそう考えている」

「へベルナとアーヴィが判断したのなら......そうだな」


 信頼を置いていた、へベルナとアーヴィの二人の意見を飲んで

 ネイロスはチームを二つに分けて内部に向かう増援部隊50名を選択した。


「ザイルドにはその戦闘があった場所までの案内をお願いする」

「了解したぜ」


 こうしザイルドを先頭それぞれ魔石採掘場の入り口へと向かっていく。


 内部と外の二手に分かれ、採掘場外の戦闘はその後終わらせる事が出来た。


 戦闘が落ち着き始めるとへベルナはある男を捜索していた、アキラである。

 戦闘でごちゃごちゃになったとはいえ、牢屋は機能していたが、アキラがいない。


「(おかしい、逃げ切れるはずがないのに......)」


 闇の鎖は時間が経てば消えるとは言え、まだそんなに時間は経っていない。


「――こういう人見ませんでしたか?」

「知らねぇな、盗掘してたやつなんだろ?どうでもよくねぇか?」


 色々な人に聞いたが見ていないという。


「まさか、本当に逃げられた?」


 もし、そうなら彼女の失敗だ、確かにあの戦闘の隙を突けば逃げられない事もなかった。


「はぁ......」


 へベルナはこうしてアキラの事を報告をするが、今は戦闘の後処理中、死者は出なかったとはいえ、怪我人が出ていたので、みな真剣には探していない。


「しかし、大量にいる冒険者を襲うなんて馬鹿な奴らだ」


 各々が戦いの感想を言い合う、まぁ彼らにとってもいい刺激になった程度の認識だった。


「なるほど、逃げられたと......」

「申し訳ありませんマスター......」

「やらかしたな、へベルナ」


 へベルナはアキラの事を報告しもう一度、魔石採掘場へ突入をする準備を始める、その矢先だった――


「ッ!?」「なんだ!?」


 入り口付近にいた冒険者の影から黒い蛇のような物が伸びて来た

「な、なんだよ......これ」

 抵抗しようにも蛇はすり抜ける。

「ぇ――」

 影の蛇はその冒険者の肉体を貫き、薄い青の塊を抉り出すと何処か消失して、冒険者

 途端に倒れた。


 唖然、何があったのかわからない、困惑する。

 そして誰かが声を上げる。


「――おい、中の奴らは大丈夫なのか!?」

「そっそうだ――」


 ■


 そして中に入って調べて行けば、見つかるのは眠ったように倒れている人、人、人。冒険者だけではなく、そこに住んでいたであろう魔物、闇ギルドの残党、全てが倒れている、幸いだったのは死者はおらず皆昏睡状態であったことだ、しかし彼らに何をしても目を覚まさない。


 外に次々と運び出されていく人、そんな様をネイロスは茫然と見ている。


「どういうことだ......何があった......」


 恐らくは大規模な魔法が発動した、したとしか言えない。しかしどうやってこれほどの規模の魔法を......。


「......」

「へベルナ、どうかしたのか?」

「いえ......」


 へベルナが何かを言おうとした時、泥玉がネイロスに飛んでくる。


「――ッ!」

 へベルナは咄嗟に杖で泥玉を振り払う。


「なぜ庇った!」

「自分のマスターを守るのに理由が必要ですか!」


 へベルナは強く言い張る。


「ネイロスの作戦ミスで俺たちの仲間が倒れたんだぞ!」

「関係ありません!」

「へベルナ、庇う必要はねぇ、俺のミスでもあったんだ、奴らの気が収まるなら......」

「ダメです、私が許しませんよ」


 しかし、別の冒険者も噛みついてくる。


「俺たちの所だって、仲間が多くやられたんだぞ!」

 ギルド【黄金の鍵爪ゴールドクロウ】だ。


「へベルナ、仕方ないだろう、俺たちの所の冒険者もやられた」

「ッッ!自分のマスターを裏切ると!?」


 それを言ったのは【赤の壁レッドウォール】の№2アーヴィであった。


「信じられない......アーヴィ、貴方が......」


 あろうことか同じ【赤の壁レッドウォール】№2の冒険者でさえ、

 ネイロスを裏切ろうとする始末。


「......そうか、そういうことか......そういうことだったんだな......」

「マスター?......」

「......」


 一触即発、そんな中だった――


「――そこまで!」


 声の主は【黄金の鍵爪ゴールドクロウ】のギルドマスター・バルガだった。


「お前ら、いい加減にしろ!冷静になれ!」


 この場に居た者はみな感情に支配されていたがバルガの怒声でそれを打ち払う事に成功したのだ。


 後ろから現れたのは【緑の園グリーンガーデン】ギルドマスター・ハネリィ。【緑の園グリーンガーデン】は裏方としてサポートしていたために被害は出ていなかった。


「......バルガを呼んで正解でしたね......情報共有を行いますよ」


 こうして、一応の平穏が生まれ、採掘場から逃げた者が確認できただけで3人であることがわかった、アキラという男、怪物、そして内部で戦闘が行われ、関与が疑われる闇ギルド【暗闇の蛇】の捜索を行う事になった。




 ◆◇◆◇




 目を覚ますと太陽が真っ直ぐ照らす、ということは時刻は正午くらいだ。


「うわ......結構寝てたか......」


 幸い魔物などに襲われなかった、俺は運がいいのかも。


「さて、この後だな、ソルテシアに戻るべきか......」


 正直、盗掘くらいで指名手配とかされているとは思わない。

「うん、戻ろう、魔物とか出くわしたら交渉の余地がねぇ......」

 意思疎通ができない相手に出くわしたらアウトだ。


 だったら戻ろうそう思い、ソルテシアに戻る為に歩く。


 ■


 ソルテシアに戻れば、ある大広場の前に住人がごった返している、なんだ?

 どうも俺と同じように見物人がいる。話しやすそうな人に聞いてみよう。


「何かあったのか?」

「何でも一斉摘発作戦に参加していた冒険者が大変な事になったらしい」


 まぁ、冒険者業も命がけだろうから、そう言う事もあるだろう。


「沢山の意識不明者が出たらしくてな、何があったのかみんな説明をみんな求めてるのさ」

「意識不明者......」

「幸い死んではないが、大ごとだからな」


 何かがあったんだ......俺が出ていった後に......


 大広場の中央に誰かが現れる。


 丸坊主にして鋭い金の瞳の大男。

 腕を組んで堂々と歩いてくる姿に人々も徐々に沈黙していく。


「【黄金の鍵爪ゴールドクロウ】のギルドマスターのバルガだ、魔石採掘場での一斉摘発で多くの被害を出した事は皆も存じているだろう」


 一体何を話す気だ?


「採掘場の作戦途中にて内部にいた者たちは昏睡状態に陥ってしまった。現在、われわれは冒険者協会やアルカディア帝国の協力を受けながら回復の方法を探している」


 なんだそれは。


「だが手がかりはある、採掘場から逃げ出した者達だ、奴らこそが我らを罠に仕掛けた者!必ずや全員捕まえてみせ、被害者を全員完治させて見せるぞ!」


 その言葉に他の住人はホッとしていたり、喜んだり様々な様子。


 俺は全くホッとしていない、ゾッとしている。

 これ、まずくないか?俺、変身姿どころか、人間の俺も容疑がかかってないか?


「――目撃者から顔を再現して手配書を――」


 俺は既にへベルナに捕まっていた、そして逃げた、結果的に逃走してしまった。


「――」


 即座にその場から去る。


 ■


「......ここを去るしかないか......自首したって、何の信用もない俺を信じてくれる訳がない」


 ここには名残惜しさもある、ただこんな大ごとに巻き込まれたら人生終了、それは勘弁だ。


 知り合いなんていない、持ち物もない。


「少なくともソルテシアから逃げるしかない......」


 町影に隠れながら、コソコソと進む。どこで手配書を見た者がいるかわかったモノじゃない。


「はぁ......はぁ......」


 どうして俺はこんな目に遭っているのか......


「......魔石盗掘しようとしたからか......」


 はぁ、俺って本当にくだらない事やらかしてるな。

「......辺りも暗くなってきた、人通りが少なくなれば逃げやすくなる」


 気が付けば貧困層の多い、スラムについていた、ある意味安全......

「んな訳ねぇよな......」

 ここがソルテシアのスラム、小汚い場所、俺が寝泊まりしてた場所に先客がいなかったのは本当に運が良かっただけか。


 怪しい売人に気が狂ってる人間。


「栄えてるように見えたソルテシアの裏の顔かな」


 どんな町にもやっぱりあるモノなんだな、変な奴に絡まれないうちにここを離れよう、もうすぐソルテシアの外のハズ......。


「――ごめんなさいっ!」

「――おら!」

「......」


 小学生くらいの少年が暴力を受けている。他の住民は助けたそうにしているが、動けずにいる様子。


「返しますから!」

「食いかけのモンを返してもらってどうするってんだ!」

 どうやら、店の品を盗んだ少年に店長の男はご立腹らしい。


「(悪いな、俺に金とかあれば助けたが、今はそんな金ないし、俺も逃走している身だからな)」

「――ッ」


 勘弁してくれ......そんな助けを求めた目を向けられたって......俺はそんなにお人よしじゃない......良い人じゃねぇんだよ。


「――ッッ!」


 大体お前が盗んだから始まったんだろう?お前が悪いだろう?


 ......チッしょうがねぇなぁ!?


 だったら俺の勇姿を見て目に焼き付けておけよ!


「......エート、そこまでしなくても――」

「あぁ?」

 やばい、怖いわ。


「っ!いっいや、盗みはダメだが、ならその額の金を返せば」

「じゃあテメェが代わりに今すぐ払え」

「......あとで払う......」

「今すぐ払えねぇなら邪魔をするなよ」


 俺を無視してまた少年に近づく。


 ......正直気が引けるが......やるしかない。


 奴の背中を――

「ウラァ!」

 蹴り飛ばす!


「――イッ」


 俺の蹴りに大きく前へ転んだ。


 その隙に――


「――おい、逃げろ!」

「――でも......」

「早く!」


 クソッ俺もさっさと逃げるぞ、マジで危険犯しただけだよ!




 走る――



 走る――




「人通りもなくなってきた......」


 さすがにここまでは追ってこないか、あの少年には悪いがこれ以上関わる気はない、

 後は一人でどうにか――


「エッ」


 背中から刃物が突き刺さり腹を貫いている。


「っ......ッ?」


 え?


「俺を甘く見てたな?」


 なんだ、一体なにが起きた、最悪だ、最悪、最悪な状態。


「グ......」


 口の中が鉄の味がする。


 奴は俺の背中に刺さっていた短刀を取り出す。


「グアァ」

「俺、元々冒険者なんだよ、全く甘く見られたもんだ」

「くっ......」

「おらぁ!」


 背中を思いきり踏まれる、あぁやっぱり無茶なんてするものじゃない......


「大体俺、全然悪くねぇよな?泥棒を教育してたらさ、お前が突っかかってきたんだもんな?」

「......」


 痛めつけるのを楽しんでいた癖に......俺だって別に庇うつもりはなかったが、あの目を見たら動かざるを得なかった。


「何とか言ったらどうだ!?」

「――ッ」


 踏みつけられ続ける。


「ガハッ......」

「へっ辛そうだな、これで最後にして――」


 ふざけるなよ、いい気になりやがって、街中だろうが関係ないここで変身して――




「何をしているのですかッ!」

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