第4話<夏草と旗>4

数時間後、基地で健太を待つハカセが、静かにノートを開き見つめていると「完璧や!良い布が見付かった」と健太は叫びながら河原を駆け降りて来た。

両手に抱え込んでいる物を見せようとして、転びかけた健太にハカセは「どうしたんですか?慌てて」と取り乱す様子もなくノートを閉じる。


「コレ見てみ!団旗にピッタリやろ!」


自慢気に白色無地の布をその場で拡げる健太。


「確かに大きさも丁度良いですね」

「だろ~!今日は一緒にデザイン考えようぜ」


嬉しそうに布をはためかせる健太にハカセは「デザインの前に団名じゃないですかね」と持っていた自分のノートを差し出す。


「団名か~、ゲリラ応援団ってどうかな?」

「何だか‥‥応援してくれない日が有りそうですね‥‥」


ハカセの一言に唸り声をあげて悩む健太。

二人共が同じように腕組みをして、無言で考え込んでいると「良いの思い付いた!」と健太が両手を叩く。


「少年ギャング応援団!」


健太はハカセの返答を瞳を輝かして待っている。


「良いんじゃないですか」


数秒考えた後、小さく頷くハカセ。


「そうやろ良いやろ!映画のタイトルまるパクリやけどな!」


嬉しそうに笑顔でガッツポーズをした健太は「よし!次はデザイン決めよう」とすかさずノートを拡げた。


「先ずは俺達の名前を端の方に入れて‥‥」


夢中になり独り言を呟く健太。


「まだ参加するとは決まってないですよ」


次々と応援団結成の準備を進めていく健太を、ハカセは慌てて止めるが「もう一人決まれば良いんやろ!どうせすぐに入団する事になるって」と健太は心配する気配すら無く、布を拡げて書く位置を確認している。


「そんな都合良く見つかる訳ないですよ」


否定するハカセの言葉を遮るように、ガサガサと夏草を掻き分け基地に近づく音が聞こえてくる。

気付いた二人は振り返るが拡げた布に隠れて足元しか見えない。

布越しに顔を出した二人が再び覗き込むと、そこには光久が立っていた。

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