ケース1 窃盗罪

【ケース1】


被告人 前田祐喜

性別  男

年齢  15歳

職業  中学生

罪状  窃盗罪

犯行日 2059年1月19日



〈聴取記録〉 被告人が5歳頃、両親が離婚。母親が親権をとり二人暮らしとなる。一度食事を残した時、母が異様に心配したという経験から食事を多く取るようになる。

 食事量は増加の一途をたどり、10歳頃には適正体重の2倍を計測した。被告人はその頃から太っていることをコンプレックスに感じるようになる。

 中学校に入ると太っていることについて、同級生のいじりがいじめへとエスカレート。いじめの内容は、皆の前で「デブ」等暴言を吐かれる・持ち物への落書き・持ち物を隠される・暴行・無視等多岐にわたる。いじめについては「心配させたくない」という理由で母親に話すことはなかった。

 2059年1月19日午後5時頃、被告人はコンビニエンスストアにてガムを窃盗。様子がおかしいと感じた店員が被告人に声をかけたところ、すぐに自白した。5時30分頃、警察に連絡。窃盗した理由は「同級生に命令されて逆らえなかった」と供述。


〈裁判記録1〉2059年2月21日初公判。被告人は起訴されることとなる。いじめを行った疑いのある同級生は証拠不十分で不起訴となった。

 裁判終了間際、裁判長が「何か質問はありますか」と尋ねたおりに「軽犯罪法の体重減量をしたいです」と被告人が申し出た。裁判官・裁判員は直ちに協議を行う。

 被告人の現在の体重は89.5キログラム。情状酌量の余地もあるとして「指示体重」をマイナス5キログラムの「84.5キログラム」とした。

 体重減量に際して生じた不利益について裁判所は一切の責任を負わないこと、減量期間中は日常生活を送れるがGPS等で常に監視されること、31日後の3月24日までに指示体重を達しない場合は窃盗罪にさらに罪が加重される点を、被告人は了承した。

 この事件は、マスメディアに報道され「子どもを守り、いじめを厳罰化する法律が必要だ」と世論の声があがっている。


〈裁判記録2〉2059年3月24日、第二回公判。裁判所にて検察官・裁判官等の前で体重を測定する。

 測定値は「80.3キログラム」。被告人は9.2キログラムの減量に成功し、指示体重を達成した。これにより被告人は無罪が言い渡された。

 裁判官の「(減量)期間中はどのように過ごしましたか」との質問に「まず、ガムを盗んでしまったコンビニに謝りに行きました。その後は図書館でダイエットについて勉強をして、ちゃんとした食事と運動をしました。とくに野菜を食べるようにしました。リバウンドしたくなかったので食事抜きはしませんでした」と答えた。「今後はどう過ごしますか」との質問には「誰に脅されても、もう悪いことはしません。そしてダイエットをもう少し続けて平均体重にしたいです。減量がうまくいって少し自信がつきました」と答えた。「今日はこれで終わりです。最後に言いたいことはありますか」との問いに「これからは、いじめをなくす活動をしていきたいです。今日はありがとうございました」と笑顔で丁寧にお辞儀をした。裁判官も「お疲れ様でした、頑張ってくださいね」と声をかけた。

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