第Ⅱ章 第24話 ~ずっと一緒だよ、最期まで……~


「ごめんね、ノイシュ」

 頭上からり注がれた義妹いもうとの声は、いつもの優しさをふくんでいた。

「あなたを助けたい、絶対に……そのためなら――」  


「死ねぃッ」

 直後、エスガルが漆黒しっこくの波動を放出した。アニマらう黒魔あくまうずを巻きながらまたたく間に義妹へと距離きょりちぢめていく――


「私、何だってする……っ」

 大神官を見据みすえまま、ミネアがそちらへと片腕かたうでき出していく――


「ダメだ、止めるんだ……ッ」 

 そうノイシュがさけんだ瞬間しゅんかん、義妹は衝撃波しょうげきは解放かいほうした。暗紅あんこう光芒こうぼうがうねり、それらがへびのごとき姿すがたへと変じていく。目の前にいる少女が生み出した魔蛇まへびれとなってエスガルへと殺到さっとうし、敵神官のちょうこうじゅつとの距離を縮めていく――


――ミネア……ッ

 ノイシュははげしく声を上げたが、直後にひびわたった激突音げきとつおんき消された。眼前がんぜんでは黒き吸血きゅうけつにぶかがやき、自らの残滓ざんしき散らしながら互いを激しくらい合っている。ノイシュは全身から悪寒と恐怖がき上がるのを感じた。間違まちがいなく霊力れいりょくきた方が、そのアニマむさぼられる――


「う、うぅ……っ」

 義妹がすぐそばで苦しそうに表情をゆがめていく。彼女の顔つきにノイシュは息苦しささえ感じ、思わず自らののどにぎった――


「なっ、何だと……っ」

 不意にそう声が聞こえ、ノイシュが顔を向けるとエスガルもまた眼を大きく見開いていた。少しずつ暗紅の光芒が大神官へとせまっていく――

「バカなっ……ケアドのアニマさえ吸収した我が霊力を、しのぐというのか……っ」 


 不意に大神官がまゆり上げ、その身体からだを大きくふるわせていく――

「ならばこれでっ……ウオオォォエガレァッ」

 エスガルの絶叫ぜっきょうが奇声じみていくのを耳にしながら、ノイシュは彼の黒いもやの様な燐光りんこうが急激にふくれ上がっていくのを視認しにんした。瞬時しゅんじに新たな漆黒の悪魔共が生き血を求めて飛び出していく。次々とアニマを求める魔蛇達は周囲の戦士達へと殺到さっとうしていった――


「ガギギャがあァァッ」「あウゥエゥァッァァッ」

 黒き悪魔にとららわれた戦士達が叫喚きょうかんの声を上げ、絶望ぜつぼう交響曲こうきょうきょくが周囲に響き渡っていく。やがて一匹の使い魔がこちらへと迫ってくるのにノイシュは気づいた。回避かいひしようとせた身体を持ち上げるが、左腕ひだりうで激痛げきつうが動きをさまたげてくる――


――ぐっ、間に合わない……ッ

 アニマむさぼくす魔蛇まへびが自分の身体にれようとした瞬間、隙間すきまから暗紅にかがやく別の燐光が差し込まれた。瞬時にエスガルの放った吸収術と衝突し、魔蛇がき消えていった――


――これは一体っ……

 ノイシュが急いで赤黒い光源に顔を向けると、義妹の身体から発する光芒がマクミルや自分を包んでいるのが分かった――


「エガガッゲァアッ」

 もはや言語とならない声が耳に届き、ノイシュは視線をふたたびエスガルへと顔を向けた。そこでは貪欲どんよくに戦士達のアニマを喰い荒らした黒き魔蛇と、白眼しろめきながらあわくエスガルの姿があった――


「ゲッァレガィェ……ッ」

 不意に大神官が表情をゆがめた直後、彼の発する燐光がより激しくきらめいた。その超高位秘術が一気に巨大化していき、容赦ようしゃなく義妹のそれをんでいく。アニマうばい去る暗黒あんこくじゅつが義妹に迫り、彼女はえきれない様に身体を折り曲げた――


「ノイシュッ、早く逃げて……ッ」

 悲鳴の様な彼女の声が耳朶じだを打ち、ノイシュは強く奥歯おくばんだ。


――逃げるなんてきないっ、僕は……ッ

「うわぁぁああッッ」

 ノイシュは絶叫しながら両腕で上体を起こした。途端とたんに左腕がしびれる様な痛覚つうかくうったえてくるものの無理に頭の片隅かたすみへと追いやる。そしてわずかに身体を前に押し出し、右手を義妹に向けてばした――


 左手をれられた義妹が、思わず顔をこちらに向けてきた。

「ノイシュ……ッ」

 ノイシュはそのまま義妹のてのひらに自分のそれを重ねた。


「ミネア、僕の霊力も使って……」

 眼前の少女がおどろきの表情を見せる。すでにエスガルの攻撃こうげきはあと数歩前の距離にまで迫っていた――


「まさか、じゅつ連携れんけい……ッ」

 義妹の声を聞き、ノイシュはうなずきながら微笑ほほえんだ。

「ずっと一緒いっしょだよ、最期さいごまで……」

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